『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第78回では、取締役が臨時株主総会を開催する意義について解説する。
なにも起こらないまま終わるが、それでいいのか?
外資系ファンド・サンデーキャピタルからの買収提案で揺れる新興上場アパレルメーカー・T-BOX。創業者で社長を務める花岡拳は、サンデーキャピタルへの対抗策として、取締役会で新たな提案を行う。
臨時株主総会を開催し、自らの取締役解任……つまり社長として自身をクビにするかどうかをはかると言い出したのだった。
創業期からのメンバーで構成された取締役陣は、そんな花岡の提案に驚き、口々に反対の意見を挙げる。そこで花岡は役員の一人である大林隆二に対してこう問いかける。
「大林…このままだと何も起こらないまま終わるが…それでいいのか?」
花岡の言葉の裏にある意図を読み取った大林は、花岡に目配せしつつ「社長に代表取締役降りてもらうこと、考えてもいいんじゃねえか」と声を上げる。
直後、腹痛を訴えて離席する花岡。残った経営陣は大林に何を考えているのかと問いただすが、大林は「すべて芝居に決まってんだろ」と冷静に返す。そして、花岡が臨時株主総会の場で、サンデーキャピタルの買収提案を払いのけるために“直接対決”をする意思を固めたのだと説明するのだった。
「社長をクビにする」のは誰なのか
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
経済ニュースを見聞きすると、「社長解任」「代表交代」といった言葉を目にすることは多いが、会社法においては「代表取締役の地位を解き、取締役に残すこと」と「取締役そのものから外すこと」は厳密には別の話だ。
法的には「取締役」と「代表取締役」は別の地位になる。取締役会のある株式会社では、取締役の中から代表取締役を選び、その代表取締役が文字どおり会社を代表する。もし取締役そのものを解任されるとなれば、経営から一線を引くことを意味する。
取締役会を設置する株式会社では、基本的に代表取締役の選定や「解職(代表権だけを外すこと)」は取締役会で決めることになるが、一方で取締役そのものの「解任(取締役から外すこと)」には、原則として株主総会の決議が必要になる。
つまり、花岡を単に「社長(代表取締役)」という立場から降ろすだけなら取締役会でも可能だが、取締役として会社から退かせる場合は、株主に判断を仰ぐ必要があるわけだ。
漫画ではあいまいに描かれているが、花岡と大林が画策したのは厳密には後者だ。花岡は自らの解任を議題とする臨時株主総会を開催し、あえて自分の進退を問おうとしている。
いわば、敵対するサンデーキャピタルを含む株主を一同に介した場で「信任投票」をして、直接対決しようというわけだ。
株主総会は、経営陣が株主に説明するだけの場ではない。取締役の選任や解任などを通じて、誰に会社の経営を託すのかを株主が決める場でもある。
大林が「すべて芝居」と見抜いたのは、そんな花岡の狙いだった。もちろんそこには、「もし花岡が解任されれば、自らが代表の座に就ける」という、露骨な下心があるのだが。
議論をし尽くした花岡たち。いよいよ、臨時株主総会の開催へと進むのだった。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







