「この人のことをもっと知りたい」と思ったとき、私たちはつい、その人自身を見ようとします。しかし、本当に見るべきなのは別のところにあります。その人が「何を見ているか」を見る。そこに、人といい関係を築くための大きなヒントがあります。本記事では、書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

おすすめされた映画が「ビミョー」だったとき、どんな感想を伝えればいいのか?

相手を見ているだけでは、相手のことはわからない

 人と仲良くなりたい。
 相手のことをもっと理解したい。

 そう思ったとき、私たちはその人自身に意識を向けます。

「どんな性格なんだろう?」
「何を考えているんだろう?」
「自分のことをどう思っているんだろう?」

 もちろん、それも相手を知る方法のひとつです。

 でも、相手のことばかり見ていても、意外とその人のことはわかりません。
 なぜなら、その人の頭の中は見えないからです

 じっと顔を見ていても、考えていることはわからない。
 プロフィールを読んでも、その人の価値観まではわからない。

 話し方や服装、肩書きなどから「こういう人だろう」と推測することはできます。
 しかし、それはあくまでこちら側から見た相手です。

 では、本当に相手を理解したければ、何を見ればいいのでしょうか。

私が好きな言葉に「師を見るな、師が見ているものを見よ」というものがあります。
弟子は師匠のことを理解したいと思っている。
だったら、師匠のことを見ていないで、師匠が見ている目線の先を見てみよと。
その目線の先を一緒に見る。
そのときはじめて、師匠の考えていることがよりよく理解できる。
師匠との関係が、師弟関係からさらに一歩、深まるのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

「師を見るな、師が見ているものを見よ」

 これは、人間関係について考えるうえで、とても重要な言葉です。

「その人が見ているもの」に、その人が表れる

 たとえば、尊敬している上司がいるとします。

 その上司のようになりたい。
 だったら、その上司の話し方をマネする。服装をマネする。仕事術を聞く。それもいいでしょう。
 でも、それだけでは表面的なマネで終わってしまう可能性があります。

 本当に知るべきなのは、その人が日頃、何を見ているのかです

 会議でどこに注目しているのか。
 部下のどんな変化に気づくのか。
 売上の数字を見たとき、どの数字を最初に確認するのか。
 業界のニュースの中で、何を重要だと思うのか。

 同じ資料を見ても、人によって注目するところはちがいます。
 何を見るかには、その人の考え方が表れます

 だから、相手を理解したければ、相手の顔ばかり見ていてはいけない。
 その人の視線を追いかけてみるのです。

好きな人の「好きなもの」を見てみる

 これは、上司や師匠に限った話ではありません。
 友人でも、恋人でも、夫婦でも同じです。

 ポイントは、「相手が好きだから、自分も好きにならなければいけない」と思わないことです。

 好きになる必要はありません。
「この人は、これの何を見ているんだろう?」と考えればいい。

 たとえば、相手がある映画を「めちゃくちゃ面白い」と言っていたとします。
 自分も観てみたけれど、「ビミョー」だった

 そこで、「全然面白くなかったよ」で終わらせてしまえば、距離は縮まりません。

 だから、「逆にどこが一番好きだった?」と聞いてみる

 すると、「ストーリーじゃなくて、主人公の生き方が好きなんだよ」と言われるかもしれない。
 その瞬間、映画について知っただけではなく、その人についてひとつ知ったことになります。

 相手が見ていたものを一緒に見ることで、その人の価値観の一部が見えてきたのです。

「同じものを見る」と、会話が変わる

 面白いのは、同じものを見たあとです。

 それまでなら、「最近どう?」「仕事忙しい?」「休みの日、何してる?」というような会話しかできなかった相手とも、具体的な話ができるようになります。

「あの映画、観てみたよ」「え、どうだった?」「あの場面、なんで好きなの?」
 ここから会話が始まります。

 共通の「アレ」ができたからです

 さらに、「自分はあの登場人物のほうが好きだった」と言えば、お互いのちがいも見えてきます。
 同じものを見たからといって、同じ感想を持つ必要はありません。

 むしろ、同じものを見て、ちがうことを感じるからこそ、相手のことがわかるのです

「あ、この人はそこを見るんだ」
「自分は気にもしていなかった」

 その小さな発見の積み重ねが、人間関係を深くしていきます。

「わかってほしい」なら、先にわかろうとする

 人間関係がうまくいかないとき、私たちはつい、「もっと自分のことをわかってほしい」と思います。

 なぜ自分が怒っているのか。
 なぜこれを大切にしているのか。
 なぜそんな言い方をされたくないのか。

 説明すれば、きっとわかってもらえると思う。
 だから、さらに言葉を重ねます。

 しかし、相手との距離が遠いままでは、いくら言葉を増やしても伝わらないことがあります。
 相手の頭の中に、自分の話を受け取るためのネットワークがないからです。

 そこで、順番を逆にします。まず、こちらが相手を理解する。

相手をわかったほうが、自分のことをわかってもらいやすくなる。
良い関係を築きやすくなる。
だから、相手を理解しようとするところからコミュニケーションははじまります。
相手が見ている目線の先に何があるのか。
そこに、コミュニケーションの最初の手がかりがあるはずです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 これは、「相手に合わせて自分を曲げる」という話ではありません。

 相手が何に興味を持っているかわかれば、そこから会話を始められます。

 相手を理解するほど、自分を伝えるための道も増えていくのです。

人間関係は「向かい合う」だけでは深まらない

 人間関係というと、2人の人間が向かい合っている姿をイメージしがちです。

「あなたはどう思っているの?」
「私はこう思っている」

 お互いがお互いを見る。
 もちろん、それも必要です。

 でも、ずっと向かい合っているだけでは、息苦しくなることもあります。
 むしろ、いい関係というのは、2人で同じ方向を見ることによって生まれるのではないでしょうか。

 そのうえで、「自分にはこう見えた」「私はそこじゃなくて、こっちを見ていた」と話す。
 すると、相手がどんな人なのかが少しずつわかってきます。
 そして、相手にも自分のことが伝わっていきます。

 人と「いい関係」を築きたいなら、相手の顔ばかり見なくていい。
 その人が見ているものを、一緒に見てみる。

「師を見るな、師が見ているものを見よ」

 相手の目線の先に立ってみること。そこから、人を理解するコミュニケーションが始まるのです。

ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。