健康のために何か趣味を始めたい。そう考えている人は少なくない。せっかく時間を使うなら、「脳が若返る趣味」を選んでみてはどうだろうか。実は医学研究では、認知症予防にも効果が期待される、拍子抜けするほど身近な趣味があることがわかっている。元オックスフォード大の医学研究者・下村健寿氏の著書『糖毒脳』をもとに、その理由を紹介する。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
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医学研究者が最も勧める「趣味」
「健康のために何か趣味を始めたい」
そう考えている人は多い。
ゴルフを始める。
ジムに通う。
テニスや水泳を楽しむ。
どれも素晴らしい趣味だ。
しかし、もし「いつまでも頭が冴えたままでいたい」と願うのなら、医学研究者が最も勧める趣味がある。
それが、元オックスフォード大の医学研究者であり、「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏が勧める「ウォーキング」だ。
運動が「脳の再生」を促してくれる
なぜウォーキングがおすすめなのか。
そもそも、運動には体力づくり以上の大きな役割があるという。
下村氏は著書『糖毒脳』で、その理由をこう説明している。
人間の脳は海馬でのみ、新たな神経細胞が発生するとわかっています。
この働きを促してくれる物質が「脳由来神経栄養因子(BDNF)」です。
BDNFは「肥料」のようなものです。
新たな神経細胞になる「タネ」が埋まっている肥沃な土壌である海馬に、BDNFという肥料をたっぷりとかけることで、新たな神経細胞が芽生えて成長していきます。
これが、認知症になりにくい脳をつくることにもつながっています。
さらにBDNFには細胞の新生だけでなく、脳の中で生き残っている神経細胞同士の「つながり(シナプス)」を増やしたり、そのつながりを強化したりする作用もあります。残っている神経細胞同士の情報伝達の効率を高める「チューンアップ」も行っているのです。先述のとおり、神経細胞の数が減っていても情報伝達の効率が飛躍的に上がれば、脳全体のパフォーマンスは向上します。
この奇跡のような役割を果たすBDNFを作るために必要なのが、「運動」です。
近年の研究から、運動をすると筋肉から「ミオカイン」と呼ばれる一連の生理活性物質が分泌されることが明らかになりました。
ミオカインは脂肪や肝臓、膵臓など様々な臓器に作用して代謝を調節したり、全身の炎症を抑制したりと、体にとって非常に良い効果をもたらすことがわかっています。
このミオカインが脳にも直接作用し、脳の中でBDNFの発現を促すのです。
運動は、脳の容量低下に対抗するためだけでなく、新しい脳細胞を作る上でも非常に効果的だということです。
(下村健寿著『糖毒脳』より)
つまり運動は、脳の衰えを防ぐだけでなく、新しい神経細胞を育てる役割まで担っているのである。
ウォーキングこそが「最高の趣味」だった
では、脳の神経細胞を増やすには、どれくらいの運動をすればいいのだろうか。
下村氏は、こう勧めている。
皆さんにおすすめしたい運動内容は、拍子抜けするほど簡単なものです。
それは、ウォーキングです。
息が軽く切れる程度の早足で、1日30分程度、週に合計で150分以上歩く。
これが、医学研究に基づくアルツハイマー病の予防に有効とされる運動量です。
(下村健寿著『糖毒脳』より)
特別な道具はいらない。
ジムに入会する必要もない。
通勤で一駅分歩く。
休日に家族や友人と散歩を楽しむ。
景色を眺めながら歩くだけでもいい。
楽しいから続けられる。
続けられるから、脳にも効果が積み重なっていく。
これは健康のためだけではない。
いつまでも冴えた頭で人生を楽しむためにも、ウォーキングは最高の趣味と言えるのだ。
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。








