強力なトップダウン意識が働く中、石川氏はまずMVV(編注/ミッション・ヴィジョン・バリュー)の策定に着手。従業員1人ひとりから話を聞き、半年かけてミッション「世界にcanを」、ビジョン「宝物を託される人になろう」を策定しました。さらに2023年、「自分軸で働くこと」を意識するため、自己申告型報酬制度を導入。
従業員自ら次の半年の役割と希望給与を宣言し、5、6名の同僚らによる「投資委員会」との対話を経て決定する制度で、石川氏はこの制度を「経営者と社員の“覚悟の交換”」と表しています。
制度導入と同時に現場への権限委譲が進められ、物品購入も各人の判断に委ねて購入可能に。
こうした一連の改革によって、2021年以降、赤字から5期連続黒字へ転換。従業員の離職率も下がり、現場発の取り組みやアイデアが採用されるなど、明確な成果を上げています。
トップ主導により、ボトムアップ型の組織文化への転換が果たされたのです。
「ルールをゆるめる」ことで
むしろ自律性が育まれる
ホームインスペクション(住宅診断)サービスなどを提供している不動産コンサルティング企業のさくら事務所が導入した「マインドフルフレックス制度」(注2)も注目すべき事例です。
マインドフルフレックスとは「マインドフルネス」と「フルフレックス」を組み合わせた造語で、休みや早退、中ぬけなどを上長の承認不要で取ることができ、理由の申告も必要ないという制度です。理由を問わないため、育児や介護に限らず趣味や休息といった目的にも利用できます。
『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』(安斎勇樹、水野 祐、ディスカヴァー・トゥエンティワン)
転機となったのは、2016年頃。ライフステージの変化を理由に退職を考えるメンバーが増えてきたことでした。代表取締役社長(現・会長)の大西倫加氏自身、持病を抱えながら、働き方を変えてきた経験があり、「自分の人生で大切にしたいことをすべて諦めない」という考えのもと、この制度を構想しました。
住宅・不動産業界は長時間労働が当たり前という風潮が強く、仕事中心の意識が求められてきました。制度導入時には「これで仕事が回るのか」などと反発が強く、古参メンバーには退職する人もいました。
しかし労働時間をベースにするのではなく、成果やプロセスを評価する人事制度を整備することで、次第に定着。制度によって「自分で考えて行動する」ルーティンが身についたことで、従業員の自律性も高まり、チーム内でサポートし合う意識が高まったといいます。
「ルールをゆるめる」ことでむしろ自律性が育まれるという「自由と責任」のパラドックスが働いたのです。







