30年という長期型の個人投資家向けファンドを扱うコモンズ投信会長・渋澤健氏は、「日本資本主義の父」といわれる渋沢栄一の5代目としても知られています。明日の日本を変えていくネクストリーダーを迎えて回を重ねた対談もいよいよファイナル。新氏とは旧知の仲でもある渋澤氏を迎え、世界をフィールドにご活躍されるお2人だからこそ知りえる世界の中の日本について談じます。

渋沢栄一の言葉に触れて

新将命(以下、新) 渋澤さんは高祖父である渋沢栄一の研究をなさっているとか。私も渋沢栄一しかり渋沢栄一が心の拠り所とした『論語』に触れ、ずいぶんと得るものがありました。

渋澤健(しぶさわ・けん)
コモンズ投信株式会社取締役会長。公益財団法人日本国際交流センター理事長。
小学2年で渡米、1983年テキサス大学化学工学部卒業。1987年UCLA大学にてMBAを取得。米系投資銀行で外債、国債、為替、株式マーケット業務に携わり、1996年に米大手ヘッジファンドに入社。帰国後2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。2008年コモンズ投信株式会社を創業。2012年公益財団法人日本国際交流センターの理事長に就任。渋沢栄一記念財団理事、経済同友会幹事、日本医療政策機構理事など複数の職務に従事する。著書に『金融のプロに騙されるな』(朝日新聞出版)、『30歳からはじめるお金の育て方入門』(同文館出版)、『渋沢栄一 明日を生きる100の言葉』(日本経済新聞出版社)などがある。

渋澤健(以下、渋澤) 栄一の著書である『論語と算盤』の中に、経営者として必要な資質と教養を現在の文脈で読み解く「『論語と算盤』経営塾」を主宰しています。ですが、私が栄一を意識したのは2001年に独立してシブサワ・アンド・カンパニーを創業した時です。

 父の転勤で小学2年生から大学を卒業するまでアメリカにおりましたので、渋沢栄一の玄孫(やしゃご)だと言われる機会もあまりなかったですし、大学卒業後に就職したのも外資系の金融機関でしたから過剰に意識することもなかったんです。

 そうでしたか。

渋澤 栄一は500社以上の企業の経営に関わったといわれています。ですから起業するにあたりヒントがあるのではと思いまして、栄一の研究の元資料である『渋沢栄一伝記資料』で栄一の講演録などを読んでみたんです。すると明治末期の講演なのに、今の時代にも十分通じる言葉を見つけることができ、驚きました。

 最近ピーター・ドラッカーの古い本を読み返してみたのですが、まったく色褪せていない。社会情勢も全然違う50年近く前に書かれた言葉から得られるものがたくさんありました。物事の本質や原理原則って時代を経てもそんなに変わらないと実感しましたね。

渋澤 この伝記資料は古い言葉で掲載されていますから、日本での最高学歴小学2年生の私としてはかなり読みづらかったんですけれども、内容を現代用語に置き換えてみると、心に響く言葉が多く改めて言葉の重要性を感じました。

 株式や不動産など、一般的に言われる財産は残してくれませんでしたが、たくさんの言葉は残してくれた。言葉という財産はなくならないし、税金もかからないので素晴らしい財産だと思います。