数字というもうひとつの共通言語

渋澤 私は子どものころから人前で喋るのが苦手で、今もコミュニケーション能力に自信があるとは言えません。就職したばかりのときにこれは克服しなければと思い、参考にしたのが政治家です。どうすれば人を言葉でcaptureできるのか、お会いする機会があるたびに観察してきました。

 そこから何か得られましたか?

渋澤 たとえば新聞などで目にしているときはこの人ってどうなんだろう?と思うような人でも、話を聞くと「いいこと言うなぁ」とつい引き寄せられてしまう。首相クラスの人であれば、それは皆さん共通しています。その方の主義主張は別として、強烈に人を引きつける何か。豊かな人間性を持ち合わせている。

 グレートリーダーはグレートコミュニケ―ターであるということでしょう。ただ、コミュニケーション能力が高ければ十分かというと、そうでもありません。

「言葉はすばらしい財産」と渋澤氏。高祖父の言葉は読むほどに学びがある。

 日本人が海外で交渉の場に立つときなどは、その話の中核に数字の裏付けを伴ったロジックがないとダメでしょう。自己主張が苦手だとされる日本人が発言に説得力を持たせるには、ロジックが必要です。感情論だけでは説得できませんし、そうでなければ対等なコミュニケーションが成立しません。私自身もロジックにはこだわってきました。

渋澤 日本人だろうがアメリカ人だろうが中国人だろうが、現場の人間であろうがリーダーであろうが、数字の1は誰にとっても等しく1です。だから共通言語として数字は当然必要でしょう。

 しかし、数字やロジックにいくら説得力があるからといって、この人と仕事したいかと思うかといったらそうではなく、やはり信頼関係が築ける人と仕事をしたいと思うのが人間の性です。コミュニケーション能力という人間性とビジネス上のロジック。そのバランスが大事なんでしょうね。