スティーブ・ジョブズ氏スティーブ・ジョブズ氏 Photo:SANKEI

「話の内容は悪くないのに、なぜか印象に残らない」――そんな経験はないだろうか。スピーチやプレゼンは、何を話すかだけで決まるわけではない。最後のひと言や、話を組み立てる「順番」によって、聞き手の記憶や行動は大きく変わる。スタンフォード大学の卒業式でスティーブ・ジョブズが残した「Stay hungry, stay foolish.」は、なぜ今なお人々の心に残り続けるのか。印象に残る「締め」と、相手を動かす話し方の技術を解説する。※本稿は、スピーチコンサルタントの阿部 恵『一目置かれるリーダーの戦略的話し方 アナウンサーが教える言葉を相手に届ける技術』(三笠書房)の一部を抜粋・編集したものです。

ジョブズの「一言」は
なぜ今も記憶に残るのか

 人の記憶は、最初よりも、最後に強く残るものです。

 心理学でいう「ピークエンドの法則」(*注1)では、人の記憶は体験の中で最も印象的だった瞬間(ピーク)と、終わり方(エンド)で判断されるといいます。途中までがどんなによくても、最後が弱ければ、全体の印象は薄れてしまうのです。

 逆に、最後を効果的に印象づけられれば、その体験全体が輝いた記憶として残ります。これは、スピーチやプレゼンも同様で、「締め」のひと言が、話全体の印象を決めると言ってもよいでしょう。

 アップルの創業者、スティーブ・ジョブズの名スピーチは、その最たる例です。

 2005年、スタンフォード大学の卒業式で彼は、自らの生い立ちや闘病生活を明かしながら人生観を語り、多くの人々の心を動かしました。

 そして、最後に述べた言葉が、あの有名な「Stay hungry, stay foolish.」(ハングリーであれ、愚かであれ)です。

 この一文には、これから社会に羽ばたく学生に向けて、「好奇心と情熱を失わず、常識や失敗を恐れずに挑戦し続けろ」という、情熱的なメッセージが込められています。

 スピーチのすべての流れがこのひと言に集約され、聴衆の心には、「これから挑戦し続けよう!」という前向きな感情が刻まれました。

 まさに、「ピークエンドの法則」を体現した、最高の「終わり方(エンド)」です。

 しかし、もし締めの言葉がネガティブなものだったら、スピーチ全体の印象を沈ませてしまいます。この法則は、スティーブ・ジョブズのような大舞台でのスピーチでなくても、日常のあらゆる場面で力を発揮します。

ゴルフコンペで優勝しても
スピーチの締め次第で最悪に

 例えば、ゴルフコンペでスピーチをする場面を思い浮かべてみてください。

「今日は7番ホールで砂場に入って『もうダメか』と思ったのですが、バンカーショットが奇跡的にうまくいきました。おかげで1位になれました。一緒に回ったメンバーにも恵まれました。ただ、次の組に急かされるし、昼はビールを飲みすぎてトイレに行きたくなるし……自分としては最悪でした」

 これでは話の内容よりも、聞く側もなんだか疲労感が残ると思いませんか?ネガティブな終わり方は、そのまま話全体の印象を暗くしてしまいます。

 ところが、同じ出来事であっても、締め方を変えれば印象はガラッと変わります。

*注1 アメリカ合衆国/イスラエルの心理学者、行動経済学者であるダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)が1999年に提唱