「7番ホールで砂場に入って『もうダメか』と思っていたとき、次の組に急かされるし、昼はビールを飲みすぎてトイレに行きたくなるし……大変な一日でした。でも、バンカーショットが奇跡的にうまくいきました。おかげで1位になれました。一緒に回ったメンバーにも恵まれました。ありがとうございます!」

 こう終えると、聞き手の記憶には「失敗からの一打逆転」と「感謝の気持ち」が残ります。話の終わりが明るければ、その人自身の印象も明るくなります。

 このように、締めとは単なる「まとめ」ではありません。それは、聞き手の記憶にどんな感情を残すかを決める大事な役割を持つのです。

 では、一目置かれるリーダーは、その締めをどう使っているでしょうか。

打撃不振の選手に「宿題」
監督が示した「未来への宣言」

「未来形で締める」語りが上手だなと感じたリーダーが、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)元日本代表監督で、2026年に野球殿堂入りを果たした栗山英樹氏です。2023年の大会で、打撃不振の村上宗隆選手を4番から5番に下げた采配は多くの注目を浴びました。

 この大会、日本は見事な優勝で幕を閉じました。しかし、後半復調の兆しを見せた村上選手が4番に戻ることはありませんでした。

 凱旋時、栗山監督は村上選手本人にこう伝えたそうです。

「宿題を持ったまま終わるよ。宿題を持ったまま進んだほうが、人間、前に進めるからね」(*注2)

 この宿題とは、4番として完全復活できなかった「未完の課題」を意味します。

 栗山監督は、そのエンドを過去の評価で終わらせず、「未来への宣言」に変えたのです。だからこそ、村上選手は「次は、必ず4番を打ちます」と、気持ちを切り替えられたのでしょう。リーダーの締めの言葉が、次なる挑戦を生み出したのですね。

 リーダーが選手の未来を信じて言葉を送り、聞き手もまた、次なる未来へと心を動かす。この「未来へのパス」こそ、リーダーのスピーチが持つ力なのかもしれません。

*注2 『栗山英樹の思考 若者たちを世界一に導いた名監督の言葉』(栗山英樹、ぴあ、2024年)