高橋誠氏高橋誠氏 Photo:SANKEI

大規模なトラブルや不祥事が起きたとき、企業の評価を決定づけるのは「何が起きたか」だけではない。トップがその危機にどう向き合い、何を語るかによって、失われる信頼にも、その後の企業評価にも大きな差が生まれる。2022年、大規模な通信障害を起こしたKDDIは、なぜ記者会見で「逆に評価を高めた」と言われたのか。批判が集中する極限の場で、当時の高橋誠社長が見せた「信頼されるリーダー」の話し方を解説する。※本稿は、スピーチコンサルタントの阿部 恵『一目置かれるリーダーの戦略的話し方 アナウンサーが教える言葉を相手に届ける技術』(三笠書房)の一部を抜粋・編集したものです。

大規模な通信障害が発生
KDDIが取った対応とは?

 企業の不祥事会見といえば、批判が集まり、企業イメージが下がる、というのがこれまでのお約束でしたが、お手本ともいえるような模範的な記者会見をした結果、むしろ信頼感を高め、企業評価を高めた会見があります。

 その会見とは、2022年7月、通信障害の発生を受けて開かれた、KDDIの高橋誠社長(当時)による記者会見です。

 障害は、auの通信サービスが広範囲で利用できなくなり、影響は最大で約3915万回線。全面復旧までには約86時間も要しました。日本の通信インフラとしては、極めて大規模なトラブルです。

 ここまでのトラブルともなれば、企業への信頼が大きく揺らぐ出来事です。

 ところが、この記者会見は、ネット上でも専門家の間でも高く評価されました。SNSでは、「説明がわかりやすい」「トップが誠実だ」といった声が広がったのです。

 この会見が高く評価された理由は、大きく3つあります。

 第一は、トップ自らが矢面に立ったこと。

 企業のトラブルでは、担当役員や広報部門が説明を行うケースが多いです。しかし、この会見では、社長自らが謝罪と説明を行いました。企業のトップが逃げずに説明する姿勢は、それだけで強い信頼感を生みました。

 第二は、自分の言葉で説明したことです。

 高橋社長は、技術部門の出身でした。会見ではスライドを使いながら、通信障害の原因や復旧状況、再発防止策について、自らの言葉で説明。さらに、記者からの専門的な質問にも、よどみなく即答。トップ自らが技術を理解し、具体的に説明していることが伝わり、「現場をわかっている社長だ」という評価につながりました。

 第三は、ごまかさない姿勢でした。

 原因については「わかっている部分」と、「調査中の部分」とをはっきりと区別し、わからないことについては「現時点では確認中」と率直に伝えました。責任を部下個人に押しつけることもなく、組織の問題として受け止める姿勢を示しました。

 こうした誠実な説明が、視聴者に不信感を抱かせなかったのです。

 通常、大企業の会見では、広報担当が資料とともにシナリオを作成します。

 私自身も以前、上場企業の株主総会前に、社長のスピーチトレーニングを担当したことがあります。

 ところが、その社長の説明がどうも伝わらなかったことがありました。非常に優秀な経営者のはずなのに、言葉がどこかぎこちない。そこで私はトレーニングをいったんやめて、尋ねました。

「ここでは、何を伝えたいですか?」