ピカソは2万点の作品を残し、バッハは1000曲以上を作曲し、エジソンは1000件以上の特許を申請した――。しかし、そのうち「傑作」と呼ばれるのは全体の数%にすぎません。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、あらゆる時代のイノベーター2000人を分析した研究から、創造性の「鉄板のアプローチ」が導かれると言います。それは、質を磨くことでも、才能を待つことでもありませんでした。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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イノベーターが成功した理由
――山口さんは、「イノベーションの方法論は存在しない」とおっしゃっています。新しいアイデアや技術を取り入れてこれまでにない価値を生み出すためには、創造性が重要ですよね。私たちの創造性を高めるような方法はないのでしょうか。
山口周氏(以下、山口):「イノベーションの方法論」は原理的に存在しないと私は考えていますが、だからといって全くなす術がないわけではありません。これまでの研究から、個人についても組織についても、創造性を向上させる「鉄板のアプローチ」が存在することはわかっています。それは「とにかくたくさんのアウトプットを出すこと」です。
カリフォルニア大学の組織心理学者ディーン・キース・サイモントンは、ダ・ヴィンチ、ニュートン、エジソンなど、あらゆる時代のイノベーター2000人のキャリアを分析し、こう指摘しています。
多くの人は「イノベーターは成功したから多く生み出した」と考えている。しかしこれは論理が逆立ちしている。実際のところはその逆で、彼らは「多くを生み出したから成功した」のである。
たとえば科学者の論文の引用回数は、その科学者が残した論文の総数に比例します。そして、生涯で最も優れたアウトプットを出す時期は、生涯で最も多くのアウトプットを出している時期と重なるんです。
天才でも「傑作」は数%にすぎない
――量を追えば、駄作も増えそうですが……
山口:全くその通りで、それで構わないんです。サイモントンの研究によれば、最も優れたアウトプットが生まれる時期は、実は「最もダメな作品が生まれる時期」でもあることがわかっています。
アインシュタインが残した約300の論文のほとんどは、現在誰からも参照されていません。バッハの1000以上の曲のうち、今日コンサートで演奏されるのは定番の30~50曲程度。エジソンの1000件以上の特許のうち、実際のビジネスにつながったのは10~20程度と言われています。歴史に残る天才であっても、傑作は全体の数%しかないんです。大量のガラクタを生み出すことこそが、戦略の前提なのです。
量を増やしても「平均」は上がらない
――あらためて、なぜ「量」が「質」につながるのでしょうか。
山口:統計の概念で説明できます。まず、アウトプットの質は確率的に分布します。「極めて優れたアウトプット」が生まれる確率は非常に低いので、それを生み出すには取り組みの数を多くするしかないんです。
取り組みの数を3倍にしても、アウトプットの質の平均値は変わりません。しかし平均から大きく離れた「非常に質の高い取り組み」の絶対数は確実に増えます。同時に「非常に質の低い取り組み」も増えますが、それでいいのです。
私たちは質と量をトレードオフだと考えがちですが、そうではありません。むしろ量を求めることで、同時に質も高めることができるのです。人生の経営戦略において重要なKPIは「打率」ではなく「打席数」なのです。





