最近にわかに注目を集めている3Dプリンタやレーザーカッターなどの技術革新は、普通の人々の未来にどのような影響を与えるのだろうか?前回の記事 で、通常「製造業の変化(俗に「ものづくり革命」と言われる)」の文脈だけに限定して議論されがちな「3Dプリンタ」に、まったく新しい光を当てた、「ファブラボ(Fablab)」の日本における発起人、田中浩也氏。今回は、8月26日に横浜で開催される第9回世界ファブラボ代表者会議の国際シンポジウムで話し合われるという、教育・社会・暮らし・働き方・生き方・生きがいといった普通の人々の未来にどのような意味を与えていくか、というテーマについてご寄稿いただいた。
なぜ、いま「3Dプリンタ」だったのか?
――オープンソースが生んだ草の根の知恵が世界を変える
今回もまた最近話題の「3Dプリンタ(3次元プリンタ)」から話をはじめるのがわかりやすいだろう。
最近さまざまな場所で聞くようになったこの種の機械だが、実は約10~20年前から存在していた。しかしまだ高額で大型であった時代、その機械の使い道は「大量生産製品の試作をつくること」すなわち「ラピッド・プロトタイピング(RP:迅速な試作開発)」に限られていた。企業や大学のような限られた特別な場所でしか用いられておらず、さらにいえば、うまく使用できずに埃をかぶったままになっている場所も多かったのだ。
ところが数年前より急に、世界に「家庭用3Dプリンタ」なるものが普及しはじめる。そのきっかけは、いくつかの特許が切れたこと、そしてそれを機に、オープンソース(ネットなどで設計図を無料で公開すること)のスタイルで家庭用3Dプリンタを共同で開発し、情報を共有しながら進化させようとした人々が、世界中に同時多発的に現れたことによる。
最初の発端をつくったひとりが、英国バス大学のエイドリアン・ヴォイヤー教授である。彼が公開した3Dプリンタは「RepRap」と呼ばれ、設計図がネット上に公開されている。かつ、彼の3Dプリンタは「3Dプリンタで3Dプリンタをつくる」という、生命のような自己増殖のコンセプトから生まれたものでもあった。それが世界中で品種改良されはじめたのである。
ひとつの大企業が主導したわけでも、大型予算がついてはじまったわけでもなく、こうした草の根からのボトムアップな展開はほとんど予想外だったといえるだろう。数年前に発表された、大手シンクタンクなどの未来予想図を見ても3Dプリンタの登場について記述したものはほとんど見当たらない。「インターネット」の集合知から生まれるこうした展開は、時に専門家の予測さえも大きく裏切るのである。
インターネット「後」は、「予測」に従って社会が動くというよりも、突然の発明によって目の前の風景がガラリと変わることが、以前よりもはるかに起こりやすい環境になっている。だからこそ、「意志」を持って生きることがますます大切になりつつある。MITメディアラボの伊藤穣一氏が「地図よりコンパスを」と言うのはこうした変化を背景としているのである。