市販の大量生産品に故障があったり、不満をもったりしたとき、私たちはそれをゴミにしてしまう必要も、すぐにクレーマーになる必要ももうない。3Dプリンタで自分で修理、修繕、改良すればよいからである。あるいは大量生産品を自分に合わせてカスタマイズしたり、小さな小物くらいは自宅でつくったりすることもぐっと容易になる。
この活用法はかつての「ミシン」のような使われ方を思い出す。かつてはよく見られた、ほつれた服を修繕したり、小さな袋を縫ったりする光景だ。
「ミシン」と「3Dプリンタ」は、家庭でものをつくる行為を実現しているという点で共通している。ただミシンの時代と現代の3Dプリンタが決定的に異なる点は、インターネット環境の存在である。3Dプリンタはウェブとセットになってこそ力を発揮する。
「つくる人」と「つかう人」が再びつながる
――生活者のエンパワーメントこそ、
パーソナルファブリケータ(PF)の真の貢献
こうした状況を捉え、たとえばノキア社は、携帯電話のケースの3Dデータをネット上に公開するというサービスをはじめている。生活者はデータをダウンロードして、ケースを取り換えたり、少しアレンジしたり、壊れたら同じものをつくりなおすといったことができる。同じように、さまざまな大企業が、いま部品の3次元データをオープンソースにすることを検討しはじめている。
このようなことから、生活者と企業との関係までもが変わりはじめている。これまでの社会では、企業=生産者、生活者=消費者という図式で成り立っていた。この図式の結果、「つくる人」と「つかう人」は極端に分断されてしまっていたのだ。
しかしいま、この分断は再び近接へと動きはじめており、さらには「つかう人自身が、自分でつくる」という新しい人々が誕生してきてもいる。そこからDIY文化が再興し、周縁からスタートアップビジネスまでもが生まれようとしている。
3Dプリンタやレーザーカッターなどの、一連のデジタル工作機械は結局、ひとりひとりの生活者を、エンパワーメントする道具なのである。「暮らし」のなかで、ものを実際に「使い」ながら、「つくる(生産)」行為にも積極的にコミットしていくような、新しい能動的な存在。これをアルビン・トフラーの「生産消費者(プロシューマー)」という概念で説明したい人もいるであろう。
企業の側は、生活者=消費者ととらえるのではなく、むしろ生活者=創造的生産者としてとらえなおす時期に来ている。彼ら彼女らを支援したり促進したりする「プラットフォーム」を考える必要が生じている。それは、リアル空間とウェブ空間の両方にまたがって整備されるべきだ。