ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。この本を書いた思いや内容について、著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局、イラスト/武者小路晶子)

ADHDの女の子

「まさかうちの子が発達障害?」……激しく動揺した

――なちゅ。さんが、この本のテーマの「生きづらさ」と向き合ったきっかけは、お子さんが発達障害と診断されたことだったそうですね。

なちゅ。:はい。現在高校生の長女は自治体の一歳半検診で言葉の遅れを指摘され、のちに軽度の知的障害と、ASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けています。当時の私にとっては青天の霹靂で、当初は激しく動揺しました。「まさかうちの子が……」と。

 現在中学生の次女もADHD(注意欠如多動症)の傾向がとても強い子(ASDの診断もあり)です。娘二人が診断を受けたことで、私は自分自身の人生を振り返るようになり、そして35歳のときに、ADHDの診断を受けました。

――「うちの子、発達障害かも?」と思ったとき、気をつけたいことはありますか?

なちゅ。:私の子ども時代は「発達障害」という診断名こそ一般的ではなかったですが、親からやられたことで私の生きづらさにつながったことはたくさんあります。最もつらかったのが「そのままの自分」を認めらもらえなかったことです。

 私の親はその典型で「みっともない」「恥ずかしい」が口ぐせでした。

最悪なのは、親が「擬態しろ」と圧をかけること

なちゅ。:発達障害ではないフリをすることを、「擬態」と言ったりしますが、親が子どもに「擬態しろ」と圧をかけてしまうケースは少なくない気がしています。

 親は子どものためを思ってやっているつもりでも、子どもにとってはプレッシャーとなり、苦しさや生きづらさになるものです。

――とはいえ学校や職場で全員に心を許せるわけではありません。「擬態せざるを得ない」場面も多いと思うのですが。

なちゅ。:はい。発達障害の傾向のある当事者や子どもたちが社会の中でどう振る舞うのかといえば、いくつかの選択肢が考えられます。

 ひとつは、多数派に「擬態」すること。

 まわりをよく見て、みんなと同じようにふるまう。同じ服を着て、同じ話し方をして、同じところで笑う。これを「社会性」として、成長過程で教えられるものでもあります。私も実際そういう教育を受けたので、長いことやろうとしていました。

 でも、擬態は続きません。自分自身のリズムに合った振る舞いではないからです。そして、ずっと擬態を繰り返し演じ続けるには、私たちの体力は足りなさすぎる。しかも厄介なことに、擬態が成功すればするほど「できる人」だと思われて、要求は上がっていく。それに、もともとできなかった人間の擬態は所詮中途半端です。必死で隠したことでいずれ限界を迎え、自分が潰れたり相手に詰められたり……、結局どこかで破綻してしまうんです。

 もうひとつは、全部「降りる」こと。

 周囲に合わせるのをやめて、子どもの好きなようにやらせる方法です。これも、間違いではありません。

 ただ、人間は、社会の中で生きる生き物なので、周囲との共通点が減るほど理解され難くなり、扱いにくい存在になり、人が離れていく。話が通らなくなる。所属できるコミュニティは減る。多数派の人間から離れるほど、社会の中に存在する「困ったときの手段」を失っていくこともあります。

完全に降りるのではなく、世間に主体的に「寄せる」

――確かに。いくら降りたところで「学校」や「社会」がなくなるわけではないですよね。

 はい。私が提案するのは、その間を取った、第3の選択肢です。世間に「ギリギリ、ちょっとだけ寄る」。この一線を、私は「最終防衛ライン」と呼んでいます。

――擬態とは何が違うのでしょうか?

 たとえば身だしなみでいえば、最低限の清潔。湯船には毎日浸からなくてもいいし、部屋は散らかっていてもいい。でも、においはさせない。虫はわかせない。

 大事なのは、全部ゼロか百かで考えないこと。そして、子どもが自分から、主体的にラインを引くことです。今回の本では、この「絶対防衛ライン」の具体例をたくさん紹介しています。

[著者]
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。