10人に1人という左利き。自身も左利きで、『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』著者の加藤俊徳医師によると、左利きには「ひらめき」や「独創性」など、右利きにない様々な才能があるそうです。実際、左利きとして知られる有名人の中には、他にはない天才性を見せている人も多くいます。
そこで、加藤先生が各界で活躍する「すごい左利き」の才能を深掘りする新企画【すごい左利きファイル】をスタート。第三回に登場するのは、書道家として有名な武田双雲さんです。
全2回でお届けするこのインタビュー。左利きかつADHDでもあるという武田双雲さんがどのようにしてその才能を開花させたのか、先生との対談から明らかになっています。(構成:山本奈緒子)

【左利きと発達障害の意外すぎる関係】脳内科医・加藤俊徳×書道家・武田双雲

「日本のダ・ヴィンチ」
左利きの書道家・武田双雲

加藤俊徳医師(以下、加藤):僕は子ども時代、家族の中で一人だけ左利きで、それが嫌で4歳のとき自ら鉛筆、習字だけは右利きに直したんです。双雲先生は家族に左利きは?

武田双雲(以下、武田):僕も親きょうだいは全員右利きで、僕だけが左利きですね。何で僕だけなんだろう? 不思議だな。もしかしたらおばあちゃんとかが左利きだったのかも。

加藤:書道は右手で書かれていますが、他にも右利きに変えたものはありますか?

武田:字を書くときだけです。あとは全部左手。お箸も、野球もハンドボールも。字だけは、母親が書道の先生だったので2歳で初めて筆を持ったときから右手でした。だから書道以外の字も気づくと右手で書いていたので、とくに右に変えられたという意識もないんです。

加藤:絵は左手のほうが描きやすくないですか?

武田:そうですね。でも線を引くなど細かいものは右で描きます。左手は、ザーッと色を塗るとかアバウトな作業のときに使いますね。だから一応、字は両方で書けます。鏡文字も書けますよ。

加藤:レオナルド・ダ・ヴィンチも両利きで、鏡文字を書くのが得だったらしいですよ。

武田:ダ・ヴィンチ研究家の方に会ったことがあるんですけど、「日本のダ・ヴィンチは武田双雲だ」と言われました(笑)。僕の行動とか発言がダ・ヴィンチとよく似ているらしいです。「何がそんなに似ているんですか?」と聞いたら、「ジャンルレスなところだ」と言っていたんですけど。

加藤:僕は脳の研究者であると同時に小児科医でもあって。子どものADHD(注意欠陥多動性障害:発達障害の一つにカテゴライズされている)など発達障害も専門なんですが、発達障害の子は言葉の発達が遅いことが多く、さらに鏡文字を書くことも多いんですよ。

武田:実は僕もADHDと診断されているんです。僕の両親もどう見てもADHDだろうなと感じるので、僕もど真ん中だと思うのですが。両親は今も落ち着きがあまりないし、何より時間の感覚というものがないんですよ。だから友達から他の親の育て方を聞いてびっくりしたんですけど。

加藤:たとえばどんなことに?

武田:「勉強しなさい」と言うお母さんが、世の中たくさんいるということも知りませんでした。僕は両親から、ただ「天才」と目の前で感動されるだけだったんですよ。「勉強しないと〇〇になれないよ」というような、未来の話が一切なかったんですよね。

“天才”の所以は「左利き×ADHD」?

加藤:ところで、双雲先生は何になりたかったんですか?

武田:僕自身なりたいものというのが一切なかったんです。やはり未来の感覚がなかったので。笑い話なんですけど、「就職」という言葉は聞いたことはあったけれど、自分が就職するという感覚がなかったんですね。で、大学に4年間通って終える段になったとき、「武田くん、就活してないの?」って言われて。何のことかと思ってまわりに聞いたら、みんな就職先が決まっていて「え? なになに?」と。それくらい、未来感覚がなかったんです。

加藤:時間感覚だけではなく、自分のことも分からないんじゃないですか? 僕から見ると、そういう顔をしています。

武田:えっ、分かるんですか!? その通りで、今の自分が武田双雲だとか書道家だとかいうのは分かっているんですけど、それも瞬間的に消えます。それで赤ちゃんのような脳に戻るといいますか。だから、「みんなそんなにいろいろ先のことを考えて生きていたんだ、へえ~」という感じだったんですけど。

加藤左利きの人は発達障害も併せ持っていることがすくなくないという印象です。実は僕自身も左利きのADHDなんです。もっと本当に自覚したのは40歳を過ぎてからですが。おそらく双雲先生も同じだと思うのですが、ADHDの人って自己感情が弱いんですよ。自分の気持ちを認知しにくい。だからいろいろな人に囲まれると、その場その場で違う感情や気づきが出てくるわけです。それが、双雲先生が天才と言われる所以かもしれませんね。

武田:天才かどうかは見方だと思いますが、圧倒的に人と違う何かはあるんでしょうね。凹か凸かは分からないですけど、激しく歪な何かは持っているのかな、と。