政治家や役人の仕事ぶりに、なぜこうも首をかしげてしまうことが多いのか。じつはそこには個人の資質ではなく、どんな組織にも共通する昇進の仕組みが関係している。民間企業で働く人にとっても決して他人事ではないだろう。本記事では、『[新装版]ピーターの法則』の内容から、有能な人材ほど昇進とともに成果を出せなくなる理由と、それを避けるための具体的な方法を紹介する。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

日本の会社組織のイメージPhoto: Adobe Stock

昇進が生む「無能」の正体

「なぜ、あの人があのポストにいるのか」。職場でそう感じたことはないだろうか。しかも厄介なのは、その相手が最初から無能だったわけではないという点だ。優秀だったはずの人が、昇進した途端に精彩を欠くことがある。

 この現象を説明したのが、教育学者ローレンス・J・ピーターが提唱した「ピーターの法則」である。

 階層社会では、人は現在の仕事で有能だと認められる限り昇進を重ね、やがて自分の力では務まらない地位、すなわち無能レベルにたどりつき、そこで止まる。本書は、この組織の宿命を解き明かした一冊だ。

 著者はこれを一部の体制に限った話とは考えていない。

比較階層社会学での私の研究によると、資本主義であれ、社会主義であれ、共産主義であれ、すべての政治体制は、無駄で無能な人間をひたすら蓄積させていくという点で共通しています。(『[新装版]ピーターの法則』より)

政党という出世の階段

 わかりやすい例が、政治の世界だ。

 私たち有権者は、最も有能な代表を選んでいるつもりでいる。しかし実際に候補者を選び出しているのは、政党という組織である。

 その政党もまた、一つの階層社会だ。上手に支持者を増やすメンバーがリーダーになり、選挙資金集めで功績を上げた党員は、公認候補を決める委員会のメンバーになる。

 だが著者は、資金集めの腕前と、議員にふさわしい人物を見抜く力は別だと述べる。しかも委員会が判断の基準にするのは、議員として適切かどうかではなく、選挙に勝てそうかどうかなのだ。

制度の新旧を問わず、政治を志す人々は、候補者から国会議員へと通じる階段を昇り、いつかその人なりの無能レベルに落ちつきます。それが政治の世界の現状なのです。(『[新装版]ピーターの法則』より)

 演説がうまい、テレビ映りがいい。それは選挙に勝つ能力であって、国を動かす能力ではない。

「数字を上げた」という理由だけで、社員を管理職に引き上げる会社にも、同じような出世の階段が存在している。

肩書きが増えるほど危うい

 本書には、無能の広がり方を左右する意外な要素も示されている。ポストの数だ。

無能レベルに達してしまう人の数は、その階層社会に存在する地位の数に比例するので、多くの肩書きがあればあるほど、無能に陥る人間も増えます。(『[新装版]ピーターの法則』より)

 組織図に役職を増やせば、その分だけ昇進の機会は増える。だが同時に、人が自分の限界にぶつかる回数も増える。

 主任、係長、マネジャーと階段を細かく刻むほど、無能になる機会が増えるという理屈である。

 働く側への示唆は単純だ。肩書きが多い会社を「昇進しやすい会社」と喜ぶのは早計かもしれない。見るべきは階段の段数ではなく、その階段の先に自分が力を発揮できる仕事があるかどうかだ。

 ただ出世を望むのではなく、次の地位で求められるのが、「いまの自分が得意なことか、それともまったく別の能力か」を検討する必要があるだろう。