トヨタ自動車の近健太社長トヨタ自動車の近健太社長 Photo:JIJI

自動車業界が大転換期を迎える中、2026年4月にトヨタ自動車の社長・CEOに就任した近健太氏。経理畑を歩んできた新社長が、都市対抗野球の応援広告で意外な自己紹介を披露した。堅い肩書とくだけた言葉の組み合わせは、なぜ印象に残るのか。「ユーモアと人の地位との関係」に関わる研究から読み解く。(イトモス研究所所長 小倉健一)

トヨタ社長のお茶目なコメント
「私はお金が大好き!」

「経理出身なので私はお金が大好き!」――トヨタ自動車の社長と聞いて、こんな自己紹介を思い浮かべる人はまずいないだろう。

 言ったのは、2026年4月にトヨタ自動車の社長・CEOに就き、6月に代表取締役社長となった近健太氏である。1991年の入社以来、主に財務・経理の仕事を歩み、経理部長やCFOを務めてきた。

 2009年から8年間、豊田章男氏の秘書を務め、リーマン・ショック後の赤字転落や大規模リコール問題などへの対応を間近で支えた。新型コロナ禍ではCFOとして財務基盤の強化を進め、ウーブン・バイ・トヨタでは取締役・CFOを務めた。経歴だけを見れば、数字に厳しい堅実なトップという像が浮かぶ。

「お金が大好き」という言い方は、その経歴と正反対なのではなく、重い職歴を俗っぽい一言へ翻訳したものといえよう。

 ところが、第97回都市対抗野球大会に合わせて8月25日付の日本経済新聞朝刊に載った、トヨタ自動車硬式野球部の応援広告では、その堅い経歴を本人が軽々とネタにしていた。コメントは次のように始まる。

「お金が大好き!」という
キャラはどのように作られたのか

「4月に社長になった近です。キンではなくコンです。経理出身なので私はお金が大好き!(というキャラでやってます。)」

 まず名字の読み方を訂正し、その音を次のダジャレの仕込みに使う。「お金が大好き」と言い切ったあとに、括弧で「というキャラ」と付け足すところもいい。額面通りに受け取られないための予防線でありながら、言い逃れというより、自分の見せ方を分かったうえで演じていることの種明かしになっている。

 普通の社長コメントなら、「数字を大切にして企業価値の向上に努めます」あたりに落ち着くだろう。間違いではないし、批判もされにくい。

 ただ、何十社もの応援広告が並ぶ紙面で読者の目を引く力は弱い。「数字」を「お金」に、「重視する」を「大好き」に変えただけで、急に話し手の顔が見えてくる。

 さらに感嘆符と括弧書きが、会社の公式見解というより、本人が横から口を挟んだような調子をつくっている。

 実は、この「お金好き」は応援広告のために突然つくられた設定ではない。