失われた30年――。度重なる消費税増税や社会保険料の引き上げによって、国民負担率は45%を超える水準に達した一方、賃金はなかなか増えず、中間層の家計貯蓄率は低下の一途をたどってきました。日本経済は、まさに壊れてしまったのです。これ以上、家計負担を重くしないために、国民が知っておくべき「常識」とは何か? 高市政権の経済ブレーンである会田卓司氏と松本賢氏に、わかりやすく教えていただきました(この記事は、『何が日本経済を壊したのか 「失われた30年」の謎を解く18の経済講義』(会田卓司+松本賢・著)をもとに作成されたものです)。

お金がなくて落ち込む女性Photo: Adobe Stock

「日本経済」は壊れてしまった

 いま、日本経済は重大な岐路に立っています。「失われた30年」に終止符を打ち、国民全体が豊かさと希望を実感できる経済を実現するのか。それとも、さらなる停滞を許し、「失われた40年」へと突き進んでしまうのか。

 地政学的リスクが高まる世界のなかで、日本が「強い経済」を取り戻し、国民の暮らしと国家の安全を守り抜くことができるのか。私たちはいま、日本の未来を左右する歴史的な選択を迫られているのです。

 1990年代に深刻な低迷に陥ってから約30年、日本経済は惨憺たる状態が続きました。第二次世界大戦後、これほど長期にわたって経済停滞とデフレに苦しんだ先進国は、ほかに類を見ません。

 かつて世界第2位を誇った名目GDPは長年にわたってほぼ横ばいを続け、中国、ドイツに抜かれ、世界第4位へと後退しました。一人当たりGDPに至っては、世界第36~38位にまで落ち込んでいます。

 度重なる消費税増税や社会保険料の引き上げによって、国民負担率は45%を超える水準に達した一方、賃金はなかなか増えず、中間層の家計貯蓄率は低下の一途をたどってきました。日本経済は、まさに壊れてしまったのです。

経済は「数字」だけでは語れない

 この長期停滞が残した傷は、数字だけでは語れません。景気が悪化するなか、経済的な理由から自ら命を絶つ人が急増し、若者は将来に希望を持てず、結婚や出産をためらうようになりました。少子高齢化は加速し、日本経済そのものに対する悲観論が社会に深く根を下ろしていきました。

 GDPや失業率、物価といった数字の向こう側には、一人ひとりの暮らしがあり、人生があります。経済政策の失敗は、ときに人の命さえ奪うのです。では、なぜこのような事態に陥ってしまったのでしょうか。

 その根本には、「間違った常識」の蔓延があります。「国の借金が大変だ」「国債発行で将来世代にツケを回すな」――。こうした事実に基づかない「常識」が国民の間に深く浸透し、その誤解に基づく世論が、政府の誤った経済政策を正当化し続けてきました。その結果が、「失われた30年」だったのです。

「国債は将来世代へのツケ」という間違った常識

 たとえば、「政府の借金である国債は、税収(政府の収入)で返済しなければならない」「新たな国債を発行して返済を先送りすれば、将来世代へのツケになる」といった話をよく見聞きしますが、これも典型的な「間違った常識」です。

 もちろん、「借りたお金は返さないといけない」というのは間違いのないことですし、「個人がお金を借りたときには、自分の収入を借金返済に充てなければならない」のも当然のことです。そして、もしも、「その人の寿命が尽きるまでに完済できなければ、次の世代(子どもや孫)が返済しなければならない」のも事実です。

 しかし、国家の経済政策を、個人や企業と同じ次元で考えるのは、絶対にやってはいけない初歩的な過ちです。なぜなら、政府は通貨を発行する権限をもつという点において、企業や家計とは根本的に異なる存在だからです。

 企業や家計は通貨を発行できないので、自分が稼いだ収入を借金返済にあてなければなりませんが、通貨を発行する権限をもつ国家にその必要はなく、新たな国債(借換債)によって通貨を発行して借金を返済すればいいだけなのです。

日本が「財政破綻」しない“当然すぎる理由”

「そんな“打ち出の小槌”のようなうまい話があるわけがない。そんなことが許されるならば、財政破綻などあり得ないではないか! じゃ、ギリシャはどうして財政破綻寸前まで行ったんだ?」と思うかもしれません。

 しかし、ギリシャが財政破綻寸前までいったのは、ギリシャが自国通過「ドラクマ」を放棄して、ユーロ圏の共通通貨である「ユーロ」を採用していたからです。ユーロを発行できるのは欧州中央銀行だけであって、ギリシャ政府はユーロを発行できません。だから、ギリシャ政府がユーロ建て国債を償還するには、最終的にはユーロを現金で用意しなければなりません。そのため、これができなかったら財政破綻に追い込まれることになります。

 一方、日本は自国通貨である「円」を発行している国であり、日本政府が発行している国債はすべて円建てだから、国債を償還するときには、新たに借換債を発行することによって、新たに自国通貨を生み出して支払いにあてればいいのです。

 つまり、アメリカやイギリス、日本のように、自国通貨を発行している国は、何らかの理由で政府が支払いを拒まない限り、財政破綻は原理的には起こり得ないのです。

 これは財務省の公式見解でもあります。2002年に外国の格付け会社が日本国債の格付けを下げたときに、財務省は「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。」という意見書を出しています。

 そもそも、国(政府)は永続的な存在であり、個人のように寿命があるわけではありません。ある時点で借金(債務残高)をすべて返さないといけないような返済期限も当然ないのですから、借換債の発行で永続的に借り換えをすることになんら問題はないのです。

 実際、アメリカやイギリスをはじめとする先進各国は、税金を使って政府債務を返済するなどということはせず、国債の満期が来るたびに借換債を発行しています。「国債の返済の原資は国債」というのが世界の常識だし、それは日本でも普通に行われていることなのです。

「60年償還ルール」という“謎ルール”

 ここでこんな疑問をもつ人もいるかもしれません。「しかし、日本には『国債の60年償還ルール』があるから、60年かけて税金で借金返済(減債=債務を減らす)をしているのでは?」と。