たしかに、日本には「国債の60年償還ルール」というものが存在しています。たとえば、10年国債の償還日が到来したとき、その全額を一度に償還するのではなく、発行額の6分の1(60年のうち10年が経っているため)にあたる現金を、政府の一般会計予算からの繰入れ等を原資として償還し、残りの6分の5については、新たに発行する借換債によって調達した資金をあてます。このサイクルを6回(60年)繰り返すことによって、最終的に国債をすべて現金で償還し、債務をゼロにするというルールです。

 ところが、このルールは日本独自のもので、他の先進国にはこんなルールは存在しません。なぜなら、必要ないからです。繰り返しになりますが、財政収支が赤字である以上、政府債務はずっと借り換えを続けるのが常識だからです。

 そして、日本でもずっと借換えを続けているのであって、この「60年償還ルール」は、政府債務全体を60年かけて実際にゼロにする仕組みとして機能しているわけではなく、実質的な意味は乏しいのです。

 実は、このルールをつくった財務省も、「あくまで公債政策に関する政府の節度ある姿勢を示すために導入されたものであり、文字通りの減債、すなわち国債発行残高の減少を目指すものではない」と公に説明しています(自由民主党「防衛関係費の財源検討に関する特命委員会」の提言(2023年6月8日)、9ページの3-5参照)。

 つまり、「あくまでもポーズにすぎない」というわけです。

「間違った常識」が国民を苦しめる

 いかがしょうか?
 ここまでの説明を読んでいただければ、「政府の借金である国債は、税収(政府の収入)で返済しなければならない」「新たな国債を発行して返済を先送りすれば、将来世代へのツケになる」というのが、いかに間違った「常識」なのかをご理解いただけるのではないでしょうか?

 もちろん、財政規律は重要です。野放図に国債を発行しまくって、財政支出を過剰に膨らませると、過度のインフレを引き起こすなど、深刻な問題を引き起こしますから、適切な規律によって財政を管理していくことは不可欠です。

 とはいえ、「将来世代にツケを回すのは無責任であり、責任ある政治家は増税から逃げず、国民に負担をお願いすべきだ」などという「間違った常識」に基づいて、「増税」や「社会保険料の増額」などが繰り返され、すでに日本人の国民負担率が45%を超える水準まできていることは看過すべきではありません。

 そのために、多くの国民が経済的に苦しい生活を余儀なくされ、家計消費が増えないことから企業業績も苦戦を強いられてきました。「間違った常識」にとらわれることで、私たち日本人は「失われた30年」を招き寄せていたと言えるのです。

 このたび、私たちが執筆した『何が日本経済を壊したのか――「失われた30年」の謎を解く18の経済講義』(ダイヤモンド社)では、このように、30年にわたって日本経済を壊し続けてきた数々の「間違った常識」を一つひとつ丁寧に検証し、その誤りを正面から覆すことを試みました。

 専門用語を極力避け、問答形式で分かりやすく解説していますので、誰もが「なんだ、そういうことだったのか!」と腑に落ちていただける内容になっているはずです。「もう日本は成長しない」という暗い思い込みを捨て、明るい未来を切り拓くための「正しい知識」を、本書を通じてともに確かめていただければ嬉しく思います。

会田卓司(あいだ・たくじ)
クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト、日本成長戦略会議構成員
1975年埼玉県生まれ。埼玉県立浦和高校卒業。米スワースモア大学経済学部・数学部卒業、米ジョンズ・ホプキンス大学大学院経済学博士課程単位取得退学。メリルリンチ日本証券シニアエコノミスト、バークレイズ・キャピタル証券チーフエコノミスト、ブレヴァン・ハワード・ジャパン(ヘッジファンド)チーフエコノミスト、UBS証券シニアエコノミスト、ソシエテ・ジェネラル証券チーフエコノミスト、岡三証券チーフエコノミストを経て、現職。25年以上の幅広い経験と豊富な実績を積む。資金循環統計を駆使した独自の経済分析に定評があり、「企業貯蓄率」や「ネットの資金需要」の開発で有名。安倍晋三元首相が最高顧問であった「自民党財政政策検討本部」や「責任ある積極財政を推進する議員連盟」などのアドバイザーを務めたのち、2025年11月より、高市政権が設置した「日本成長戦略会議」の構成員に就任した。
松本 賢(まつもと・けん)
クレディ・アグリコル証券マクロストラテジスト
1987年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)国際経済・金融学修士課程修了。中央大学経済学部博士後期課程修了(博士、指導教授:浅田統一郎教授)。国内大手証券会社でリテール営業を経験した後、資産運用会社および証券会社において日米経済担当エコノミストとして従事。資金循環統計をはじめとするマクロ経済指標を用いて、株価や金利の適正水準(フェアバリュー)を定量的に分析し、その分析結果に基づくトップダウン型の投資戦略の策定を行っている。