そのとき、私は新人の清掃業者に扮して、社内のゴミ収集に少しの期間入ったことがあります。目的は、その怪しい社員の動向を自然な形で見るためです。
清掃業者、メンテナンス業者、クリーニング業者というのは、会社の中にいても違和感がない。丸めた紙を持っていても不自然ではない。ゴミを回収しても自然です。だからこそ、本気で情報を取りたい組織は、そういう立場に自分たちの息のかかった人間を就職させたり、アルバイトで入れたりするのです。
しかも、重要な書類というのは、意外なほど簡単に捨てられています。シュレッダーにかけずに丸めただけで捨てる。少し破っただけで捨てる。こうしたものは、拾えばかなりの情報になります。
ここで大事なのは、アクセス・エージェントが、スパイ映画のような特別な人物ではなく、日常業務の中に紛れ込める普通の人間として存在するということです。
スパイの侵入を防ぐための
「地味な基本」を徹底する
企業の社内不正でも、考え方は同じです。現金がなくなった、貴重品がなくなった、自宅に合鍵で入られた――そうしたとき、同僚を疑うだけではなく、出入りしていた清掃業者や関係者も当然、調査対象に入ってきます。誰がその期間にアクセスできたのかを絞り込んでいくわけです。
私自身、セキュリティー関連の企業顧問をしていますが、社内不正の調査を行う際には、社長が「こいつだ」と思っている人物だけを最初から追うのではなく、アクセス可能だった複数人を同じ条件で聴取する、というやり方をしています。
ただし、本気で情報を取ろうとする組織は、そうした社内不正のレベルを超えてきます。最初から、その会社に入り込むための人材を配置してくる。
その意味で、アクセス・エージェントは「たまたま協力する人」ではなく、最初から入り口をつくるために送り込まれる存在でもあるのです。
よって、対策は非常に地味ですが、基本を徹底することに尽きます。
・重要な書類を捨てるときは、必ずシュレッダーにかける
・机の上に放置しない
・印刷してはいけない情報をむやみに印刷しない
・パソコンを立ち上げたまま席を離れない
・アクセスログや印刷ログを随時、確認する
『日本を静かに侵食するスパイの手口』(勝丸円覚・青春出版社)
そして、そうした基本を守っていない社員がいれば、その場で必ず注意し、放置しないことです。
人は忘れますし、新入社員も入ってきます。だから、社員研修と是正は1度やって終わりではありません。ずっと続けるしかないのです。
アクセス・エージェントという言葉を聞くと、特別な裏社会の話のように感じるかもしれません。
しかし実際には、会社の机の上、ゴミ箱、付箋、印刷物、開きっぱなしのパソコン――そうした日常の緩みの中に、入り口はあります。
つまり、アクセス・エージェントの侵入を許しているのは、ある意味では、こちら側の油断でもあるのです。







