発達障害の当事者として困難を抱えていても、自分なりのやり方を見つけ、のびのびと暮らしている人たちはいる。『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』(ダイヤモンド社)の著者であるなちゅ。さんは、その代表と言えるだろう。同書の医療監修を務める医師・本田秀夫氏に、特性があっても幸せに生きる方法について聞いた。(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)

「葛藤」はないに越したことはない
――本田先生から見て、発達障害の特性を持ちながらも、うまく日常生活を送っている人の共通点とは何でしょうか?
本田秀夫氏(以下、本田) 大人になったときに、うまく世渡りができている人というのは、だいたいなちゅ。さんみたいな、ある種の「開き直り」の発想を持っている人です。実際、「別に人がどう見ていようが関係ない」と思えたら、本当にどうでもよくなる。そうなれるかなれないかで、人生が180度違ってきます。
だけど、その開き直りの境地に達する前にたいていは葛藤があるんですね。その葛藤が、人によっては、かなり取り返しのつかないトラウマ体験になってしまうことがある。そうすると、開き直る前に心が折れてしまって、メンタルヘルスの問題が残ってしまう。
でも、実はそんな葛藤を経験しなくても、その境地には達せるわけですよ。たとえば「こういう服を着ておけばいいんだ」みたいな指針が子どもの頃から見えているだけでも、状況はだいぶ変わってきます。
――「ありのままでいい」という言葉だけでは、なかなか動けませんよね。「開き直る」にも、具体的にどうすればいいかわからないと腹はくくれない。
本田 そうなんですよ。だから、なちゅ。さんの本のように、全方位で「こういうふうに考えて、こういうふうに行動すればいいんだ」というノウハウが網羅されているものは、腹をくくるときの大きな助けになると思います。
「開き直り」と「取り繕い」のバランス
本田 もうひとつ、僕がこの本を読んで感心したのは、かなり振り切って書いてあるのに、「最低限これは世間に合わせておかないとまずい」という線は、ところどころきちんと押さえてあることです。
たとえば、本に出てくる最初のアドバイスは「メイクで悩む前に『ひげ・指毛・眉間の毛』を処理する」というものです。これは、いちいちメイクに時間をかけなくてもいいという、「削る」話のように見えて、「いくら面倒くさくても、ムダ毛の処理はしておく」という話でもあります。
また、「365日、全身黒のワンピースでやりすごす」といったアドバイスもあります。毎日同じ服を着ていれば、むしろ「こだわりのある人」に見えるから、という理屈ですね。面白いのは「3日間同じ服を着て、次の3日間は違う服」といった中途半端なやり方をすると、かえって着替えていないような印象を与えてしまう――という注意もなされていることです。こういった判断の粒度が、いちいち的確なんですよ。
開き直りたい一方で、極端に印象を悪くすることは避けたい。そのバランスが、実にうまく取られていると思います。
人生の早いうちに手に入れたい「地図」
――先生がこれまで診察してきたお子さんたちに向けて、メッセージはありますか。
本田 僕は児童精神科医として子どもを診ています。診察室で会う女の子たちの中には、このままいけば思春期のどこかで心を折られるだろうな、と感じてしまう子もいます。
そういう子たちの手元に、「こんな生き方もあるよ」という具体的な地図である本書が届くことを願います。なちゅ。さんは、この地図を40年かけて自力で書き上げました。それを、人生の早いうちから持てるというのは、とても幸運なことだと思うのです。
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。









