フランスへ移住したトレオレル美智子さんは、学校の送り迎えで「最近どう?」と聞かれるたび、日本にいた頃と同じように「ちょっと大変で……」と答えていました。すると、なぜか相手が固まる。周囲の会話を観察してわかったのは、「いいこと」は起きるのを待つだけではない、という意外な習慣でした。

フランスで「最近どう?」に愚痴を返したら、相手が困った理由Photo: Adobe Stock

「最近ちょっと大変で……」と言ったら、会話が終わった

 フランスで暮らしながら、8人の子どもを育ててきたトレオレル美智子さん。

 移住したばかりの頃、戸惑ったことの一つが、子どもを学校へ送っていったときの会話だったそうです。

 校門で会う親たちは、

「Bonjour」

 に続いて、ほぼ必ず、

「Ça va?」

 と聞いてきます。

「元気?」「最近どう?」くらいの意味です。

 私は毎朝5時55分から、「1分朝活」という無料の時間を開いています。『奇跡が起きる毎朝1分日記』で紹介しているような、わずかな時間で心と行動を整える習慣です。月曜日だけは少し趣向を変え、さまざまな分野のゲストに話を伺っています。

 今回お話を聞いたのは、『フランス人の気楽な働き方、全力の休み方』(フォレスト出版)の著者、トレオレル美智子さんでした。

 日本でも「最近どう?」はよくある会話ですから、美智子さんは、

「最近ちょっと大変で……」

 などと、そのとき抱えていたことを普通に話していました。

 すると、なぜか相手が一瞬固まる。

 そして、

「じゃあ、また」

 と会話が終わってしまう。

「何かがおかしい」

 そう思った美智子さんは、フランス人同士が何を話しているのか、こっそり観察するようになりました。

 そこで気づいたことがありました。

 みんな、最近あった楽しそうなことや、うれしかったことを話している。

 そこで夫に、

「どうして、みんないいことばかり話すの?」

 と聞いてみました。

 返ってきたのは、

「相手はあなたを気遣って『最近どう?』と聞いている。それなのにネガティブな話を返したら、相手に失礼じゃないか」

 という答えでした。

「明日話すいいこと」が見つからない

 もちろん、これは「フランス人は絶対に愚痴を言わない」という話ではありません。

 美智子さんにとって大きかったのは、

「では、自分も『いいこと』を一つ話してみよう」

 と思ったことでした。

 ところが、やってみるとなかなか難しい。

 その場で急に、

「最近あったいいことは?」

 と考えても、思いつかないのです。

 そこで美智子さんは、毎晩、翌朝に話す「いいこと」を5、6個用意するようになりました。

 しかし、これも大変でした。

 学校の送り迎えでは毎日同じような人と会います。

 昨日と同じ話をするわけにはいかない。

 夕方になると、

「まずい。明日話すいいことがない」

 と思うようになったそうです。

 ここから毎日の見え方が変わりました。

 一日の途中で、

「何かいいことはないかな?」

 と探すようになったのです。

 今までなら通り過ぎていた出来事にも、

「これは明日話せるかもしれない」

 と気づく。

 そして、探しても何もなければどうするか。

 自分でつくるようになりました。

「いいこと」がなければ、自分でつくればいい

 翌朝、

「昨日、こんなことがあってね」

 と話せるように、今日を少しだけ面白くする。

 行ったことのない場所へ行く。

 子どもと少し違うことをやってみる。

 小さくても、人に話したくなる出来事をつくる。

 すると、いつの間にか、

「いいことがない毎日」

 から、

「話したいいことがある毎日」

 へ変わっていったそうです。

 ここがとても面白いと思いました。

 単に、

「前向きに考えましょう」

 という話ではありません。

 探すものが変わると、見えるものが変わる。

 それでもなければ、自分から一つつくってみる。

 美智子さん自身、以前は、

「環境が悪いから、自分は不幸なんだ」

 と考えていた時期があったそうです。

 一度目の離婚後、フランスへ渡ったときにも、

「フランスへ行けば幸せになれる」

 と思っていた。

 しかし、場所を変えただけで自動的に幸せになったわけではありませんでした。

 やがて二度目の離婚を経験し、7人の子どもを抱えるシングルマザーになります。

 客観的には、以前より「大変な環境」だったかもしれません。

 でも、その頃には、

「幸せかどうかは、環境ではなく私による」

 と考えるようになっていました。

「なぜ、もっと楽をしようとしないの?」

 もう一つ、美智子さんの考え方を変えた出来事があります。

 離婚後、仕事も家事も育児も、全部自分でやろうとしていたときのことです。

 ついに限界が来て、周囲から勧められ、支援団体を訪ねました。

 しかし、人に助けてもらうことへの罪悪感があり、

「私に足りない分だけ助けてください」

 と伝えたそうです。

 すると担当者から、

「なぜ、もっと楽をしようとしないの? なぜ、もっと幸せに生きようとしないの?」

 と言われました。

 美智子さんは、そこから「楽をする練習」を始めました。

 人に頼る。

 助けてもらう。

 そして、

「あなたのおかげで、こんなに楽になった」

 と伝える。

 すると、意外にも、助けた側の人も喜んでくれることに気づいたそうです。

「人に迷惑をかけてはいけない」

「自分でできることは、自分でやらなければいけない」

 そう考えて無理を重ねるより、人と一緒に生きるほうがいいこともある。

 そして、「いいこと」も同じなのだと思います。

 起きるのを待つだけではない。

 今日一日の中で探してみる。

 それでも見つからなければ、明日誰かに話したくなることを一つ、自分でつくってみる。

 明日の「Ça va?」に何を答えようか。

 そう考えるだけでも、今日の過ごし方は少し変わるかもしれません。