ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは、パートナーとの関係。距離を置いたほうがいい相手の見分け方を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局、イラスト/武者小路晶子)

「あなたのためにやってあげてる」は、負債として積み上がる
――本の中で、「あなたのためにやってあげている」と言うパートナーからは逃げる、と書かれています。かなり強い表現ですね。
なちゅ。:相手のために何かをやること自体は、いいことなんです。できないことをフォローするのは、一緒に暮らす相手として当たり前のことでもあります。
問題になるのは、それが支配の手段になったときです。
――支援と支配は、どこで分かれるのでしょう。
なちゅ。:支援はやったら終わりますが、「やってあげてる」は負債として積み上がっていきます。
「あなたは障害があるから、こちらがやってあげているんだからね」。
これをやたらと攻撃的にぶつけてくる関係は、支援ではなく支配です。こちらが思い通りに動かないときに、すぐ「発達障害だからだ!」と結びつけてくる相手とは、対等な関係は築けません。
事実だからこそ、言い返せなくなる
――「そんなの支配だ」と、その場で気づけるものでしょうか。
なちゅ。:それが、やっかいなところなんです。実際にフォローされている事実があると、自分自身も納得してしまう。
助けてもらっているのも本当だし、発達障害なのも本当なので、言い返せなくなるんですね。嘘をつかれているわけではないから、反論の足場がない。
――逆のパターンもありそうです。
なちゅ。:はい。相手のできないことをフォローしているとき、自分が「あなたのためにやってあげている」に変わっていないかも、チェックしてほしいです。
支援と支配の境目は、相手の側にだけあるものではないので。
一方的に支えるだけの関係は、存在しない
――発達障害の当事者は、支えられる側に置かれがちですね。
なちゅ。:そうなんです。支えられるだけの存在として扱われがちですし、本人もそう思っていたりします。
でも、誰かとともに生きるのは、常に相互作用です。お互いに苦手は絶対にあるし、人生にはさまざまなターンがあって、一方の調子が落ちれば一方が支える。これは、パートナーでも友人でもまったく同じです。
――介護や病気で、役割が固定される時期もあります。
なちゅ。:もちろんあります。ただ、そのときでも支えられている側が何も与えていないわけではないし、その関係が一生続くかどうかもわからない。
少なくとも、日常の中で「私だけがやってあげている」と言えるほど、関係は単純ではないと思います。
フォローするとは、相手を認めるということ
――いい関係というのは、どういうものでしょう。
なちゅ。:フォローするということは、相手を認めるということなんですね。裏を返せば、できないことを攻撃材料に使う人は、相手の存在価値を否定する人だということです。
「ここが苦手だからフォローするね」「逆にここはフォローして」を、お互いにできるのがいい関係だと思っています。
――負担が偏らないほうがいい、ということでしょうか。
なちゅ。:偏らないことは大切です。ただ、完璧に平等であるために、お互いが満タン状態で走り続ける人生設計が正しいのかというと、そうでもないと思っていて。長いスパンで見て、相手との生活をどうやって成立させていくか。その視点のほうが必要です。
わかり合えない相手と過ごすのは、お互い苦しいだけ
――それでも噛み合わない場合は。
なちゅ。:心地よく過ごせる距離は、相手によって違います。わかり合えない相手と過ごすのは、お互い苦しいだけなんですよね。
あなたが常に加害者で、自分は常に被害者だと主張するような相手は、人間関係を見る目がゆがんでいます。そこで頑張って理解を求め続けても、消耗するだけです。
理解してくれない人とは距離を置いて、理解してくれる仲間を大事にしたほうがいい。そのために、自分の生きやすい場所を探し続けてほしいと思います。
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。
[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。









