発達障害の特性がある人は、人間関係に悩みやすい。周囲に合わせようと「擬態」すれば疲弊し、合わせるのをやめれば浮いてしまう。この行き詰まりを、どうすればいいのか。
ADHDの当事者であるなちゅ。さんの新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』(ダイヤモンド社)と、その医療監修を担当した本田秀夫氏による対談。今回は、人間関係に消耗しない方法を2人が語り合った。(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)

「気が合う人」は学校では見つけなくてもいい
――発達障害の特性を持つ人たちの「人間関係の築き方」について、お二人はどのように考えていますか?
本田秀夫(以下、本田) 子どもの頃からずっと診ている人たちに、僕が言い続けているのは、「合わない人とは付き合うな」ということです。
世の中のすべての人と仲良くできる人なんていないのだから、気が合う人以外とは付き合わなくていい。クラスに誰ひとり気の合う人がいないのなら、その時期は「運が悪かった」と考えて、しばらく我慢するしかない。
日本の小中学校では、子どもたちが「ひとつのクラスにしか所属しない」という状態に置かれがちです。そこが合わないと、逃げ場がまったくない。だから極端に辛くなる。
ですから僕は、学校以外にも所属できる社会集団を確保しておくことを勧めています。学校が運悪く合わなくても、「こっちは楽しいから、まあいいか」と思える場所を持っておくことですね。
――そういう場所は、どうやって見つけるのでしょう。
本田 少数派は少数派同士で気が合うところがあります。オタク友達がいると楽しいのと同じですね。誰にも通じないマニアックな話で永遠に盛り上がれる相手に出会えると、人生はものすごく楽しくなる。だから、そういう相手をなるべく小さいうちから見つけておいて、話が一切通じないような人とはもう付き合わなくていい、と言っています。
ただ、学校の中では見つかりにくいので、意識的に探しにいく必要があることが多いですね。僕が立ち上げて代表を務めていたNPOでは、余暇活動の支援をやっています。発達障害の人に割と多いのが「鉄オタ」、アニメ好き、ゲーム好きなので、鉄道好きの子が定期的に集まったり旅行に行ったりする会、アニメ・マンガクラブの会、マインクラフトの会などを運営しています。
発達障害の子どもは必ずしもはじめから「友達がほしい」と思っているわけではないんです。やりたいことをやりに来て、結果的にそこにいる人たちと仲良くなるという形で仲間ができていく。そういう場所があれば、人間関係でそれほど悩まずに済みます。
「不登校=ひきこもり」ではなかった
――なちゅ。さんご自身はどうでしたか。
なちゅ。 10代の頃は、合わない人とは距離を置くという発想がありませんでした。私、人間が好きなので。でも、クラスとか学校の輪って形が決まっているので、そこに入ろうと思ったら、それこそ擬態が必要になってくる。そのやり方もわからないまま必死だったし、うまく入れなくてはみ出す経験もいっぱいして、心が折れていくわけですよ。
でも、大人になるともっと人間関係がもっと幅広くなりますよね。関わる人の年代もいろいろだし、合わないコミュニティはさっさと抜けられる。職場だって、合わないと思っても、それは仕事として割り切って、その時間だけ淡々と仕事して、人生を残りの部分を充実させるほうにエネルギーを使えばいいんじゃない? と。それが許されるのは大人だからこそなので、大人は本当にラクだなと思います。
本田 僕は昔、横浜で臨床をやっていたのですが、当時、子ども時代に診ていた方たちの成人後を追跡した調査では、大人になって、いわゆる「ひきこもり」になった人は3.6%でした。一方で、学校時代に不登校を経験した人は23.5%いました。つまり、不登校だったからといって、大人になってひきこもるわけではない。大人になれば、参加できる場所は学校時代よりずっと見つけやすいんです。
ムカデのように、あちこちに足を突っ込む
なちゅ。 大人の友達関係の何がいいかって、お互いに相手の意思を確認しなくていいことなんですよ。「私たち友達だよね」という確認が要らない。
それに気づいたきっかけは、親の会の先輩の保護者さんが私の娘に初めて会った時、自己紹介として名前を名乗りながら「お母さんの友達やで」と話したからです。それを聞いて、まず「私、この人と友達なんや」と驚いて、次に、自分がそう思っていれば、そう言っていいんだと気づきました。もっと早く知りたかったです。
本にも書きましたが、「友達と呼んでいいのかな」「向こうはそう思っていないかも」という迷いの正体は、「友達になるには相手の同意が要る」という思い込みなんですよね。合意形成を待っているから、いつまでもステータスが「知人」から変わらない。
でも、友達になるのは契約ではなくて、意思表明なんです。だから、合意形成なしで名乗って、軽率に増やしていい。そうすれば、依存先を分散できます。依存先が少ないと、数少ない相手に強くすがってしまう。相手の些細な行動に振り回されて、手放せなくなる。一点賭けは、賭けられた相手もしんどいんですよ。
本田 ピアの関係を複数持っておく、ということですね。所属先はいくつあってもいい。
なちゅ。 私は意図的に増やしてきたので、周りから「ムカデ化している」と言われます。あちこちに足を突っ込んでいる状態ですね。
先日、うちの14歳の次女と、本田先生が出演されたドキュメンタリーの映像を見ていました。先ほどの「鉄オタ」の子たちが集まっている場面です。そのとき娘に「すごく羨ましい。こういう場所が自分にも欲しい」と言われたんです。場の必要性は十分に理解してそのつもりで親として動いてきたのに、結局自分の娘には用意してあげられていない。それぐらい、子ども時代にそういう場所に出会うのは難しい。だから、せめて「作り方・見つけ方」だけでも今のうちに教えておこうと思っています。それが分かっていれば、本人がアンテナを張れるので。
人間関係については、いろんなコミュニティに突っ込んでいく。それも、いきなりたくさんじゃなくて、一つずつの形で広げていくのがすごく大事だなと思います。
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。
[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。









