保有株が値上がりし「自分には投資の才能がある」と錯覚していませんか? 著書『89歳、現役トレーダー 大富豪シゲルさんの教え』をベースに、好調な相場に潜む「楽観バイアス」の罠に迫ります。車選びで高揚する夫と、冷静にコストを見つめる妻の会話から見えてくるのは、投資の世界で長く生き残るための必須スキル。高値掴みを防ぎ、長期的な資産形成を成功へと導く「心の中のパートナー」の正体をお届けします。

株式相場が「順風満帆」なとき…無意識に見逃しがちな落とし穴・ワースト1Photo: Adobe Stock

好調な相場に乗る時こそ、自分の「楽観バイアス」を疑え

株式投資において、保有銘柄が順調に値上がりし、資産が右肩上がりで増えている時、私たちはつい「自分は投資の才能がある」「この先もずっとうまくいく」と錯覚しがちです。

しかし、相場が「順風満帆」に見える時こそ、足元には思わぬ落とし穴が潜んでいます。投資の世界で長く生き残るためには、自分自身の「楽観バイアス」をいかにコントロールするかが鍵となります。

ある車の展示場での、こんなエピソードをご紹介しましょう。独立起業し、子どもも生まれたばかりの夫婦が車を探しに来た場面です。

展示場の奥へと歩いていく間、それとなくご夫婦に声をかけてみた。「いいですね。お子さんも生まれて、旦那さまも独立されて。まさに順風満帆じゃないですか」すると、夫は気どらず「そうですかね」と笑ったが、横の妻の表情は曇ったままだった。あれ……? 奥さま、もしかして納得してない?
――『89歳、現役トレーダー 大富豪シゲルさんの教え』より

この場面、株式投資の心理に置き換えてみると非常に示唆に富んでいます。営業マンの「順風満帆ですね」という言葉は、メディアやSNSで飛び交う「今が買い時!」「強気相場到来!」といった甘い囁きに似ています。夫はそれに乗せられて気分を良くしていますが、隣にいる妻の表情は曇っています。

投資において、この「妻の視点」を持てるかどうかが運命を分けます。市場全体が盛り上がっている時ほど、一歩引いて「本当にこのままうまくいくのか?」「見落としているリスクはないか?」と疑う冷静さが求められるのです。

リターンだけでなく「コストと割高感」に敏感であれ

営業マンは、二人の微妙な空気を察して具体的な商品を提案します。

「こちらが、バンのコーナーになります」空気を変えるように、展示車の1台を指し示した。「やはり人気なのはこういったタイプでして。こちらなんか走行距離もまだ4万キロ程度、整備も万全ですから、安心して長く乗っていただけます」「おぉ、いいじゃん」夫の反応は上々だ。けれどその横で、妻がぽつりと、「高っ……」とつぶやいた。
――『89歳、現役トレーダー 大富豪シゲルさんの教え』より

「人気があり、安心できる」というセールストークに対し、夫はメリット(リターン)だけを見て「いいじゃん」と前のめりになっています。一方、妻は即座に「価格」という現実的なコストに対して、直感的な警戒心を示しました。

個人投資家が陥りやすい罠がここにあります。「成長性が高い」「今話題のテーマ株だ」といったプラスの面ばかりに目を奪われ、肝心の「バリュエーション(割安・割高の判断)」「取引コスト」への意識が飛んでしまうのです。

いくら素晴らしい優良銘柄(車)であっても、適正価格を無視した高値掴みをしてしまえば、投資としてのパフォーマンスは著しく悪化します。

心の中に「冷静なパートナー」を持とう

相場の荒波を乗り越え、長期的に資産を築く投資家は、自分の心の中にこの「妻」のような冷静でシビアな批判者を飼っています。自分が強気になりすぎている時、リターンに目が眩んでいる時に、「ちょっと待って、本当にその価格で買うのが妥当なの?」とストップをかけてくれる存在です。

投資判断を下す際は、高揚する自分を一度客観視し、あえてネガティブな要素やコスト面を厳しくチェックしてみる。そんな「自分との対話」の習慣が、厳しい相場の世界を生き抜くための強力な武器になるのです。