リクルートワークス研究所の研究員・アナリストとして、高齢期の就労や賃金の動向を研究してきた坂本貴志さん。新刊『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』では、データと100人超のヒアリングをもとに、定年後の仕事選びの「地図」を示している。同じ定年を迎えても、その後が明暗を分けるのはなぜか。今回は、つまずいてしまう人の特徴を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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ワースト1は「現役時代の延長線上で考えること」
――定年後、不幸せに過ごしてしまう人の特徴。ワースト1を挙げるとしたら。
坂本貴志(以下、坂本):「定年後の仕事を、現役時代の延長線上で考えてしまう」ことです。
働いているシニアの多くは、長く勤めてきた会社での現役時代の仕事を辞め、これまでと異なる仕事に就いています。これは例外ではなく、実態です。にもかかわらず、「高位の役職や高度な専門性を活かせる仕事に就けなくなった」と受け取ってしまうと、その後がずっと苦しくなる。
――延長線上にない、という事実自体は変えられない。
坂本:変えられません。変えられるのは、それをマイナスと取るかプラスと取るかだけです。延長線上にないからこそ、過去にとらわれることなく自由に選べる、とも言えるわけですから。
データが示す「定年直前の転職」の危うさ
――「延長線上で考える」と、具体的に何が起きるのでしょう。
坂本:典型的なのが、定年を目前にして焦って動くことです。
60代前半のデータを見ると、同じ会社で働き続けている人の満足度が高い。一方、65歳までの中高年期に転職した人の満足度は総じて低く、「不満足」と回答した割合も高くなっています。
――転職はしないほうがいい、と。
坂本:そう単純でもありません。同じデータをもう一段細かく見ると、50代前半で転職した人は比較的満足度が高いんです。さらに転職理由別に見ると、会社都合で辞めた人より、積極的な理由で転職した人のほうが満足度が高い。50代前半に積極的な理由で転職した人では57.1%に達します。
つまり、まずいのは「転職」そのものではなく、「定年を迎える直前に、なんとなく動くこと」です。気力も体力も十分あって活躍できる時期に、戦略的に動く分にはいい。
――中高年期の転職で多いパターンは。
坂本:大企業から中小企業へ移るケースです。中小企業には定年制がなかったり、定年を65歳に引き上げていたりする会社が大企業より多い。長く働き続けられれば生涯年収は大きく上がりますから、それを見据えた転職は十分に考えられます。
ただ、大企業で狭い専門領域を担当していた人が、中小企業では非常に幅広い業務を期待される。経営層や部下との人間関係でつまずくケースもある。そのリスクへの覚悟はしておくべきです。
年収は2割下がる。それでも満足度は下がらない
――継続雇用は「年収が下がる」と批判されがちです。
坂本:実際、定年前後で全体平均2割程度下がります。企業規模別に見ると、中小企業の減少幅は11.5%ですが、大企業では27.6%。大企業ほど落差が大きい。
ただ、ここが重要なのですが、年収は大幅に下がるのに、満足度は相対的に高いんです。多少年収や役職が下がっても、60代半ば頃までは基本的にこれまでの経験を活かして働き続ける。この選択が、結果的に満足感につながっている。
65歳までは同じ会社で働き、厚生年金を会社に負担してもらえば、その後の年金額を増やせるというメリットも大きい。継続雇用は批判的な論調で扱われがちですが、データからは決して間違った選択ではないとわかります。
本当に怖いのは、お金より「居場所」
――経済面以外の落とし穴もありますか。
坂本:むしろ、そちらのほうが大きいかもしれません。
長く働き続けた会社で定年を迎え、そこから離れた後に自身の居場所を失ってしまう。地域などに足場がなく、日々の暮らしの中で孤立してしまう人が一定数存在しています。
かつては多くの人が自営業者として地域に根差して働いていたので、日々の仕事と地域における活動が一体不可分でした。雇用されて働くのが当たり前になった現代では、会社を離れた瞬間に、その両方が同時になくなる。
――お金の問題より先に、そちらが来る。
坂本:ええ。そして、居場所の問題は貯蓄では解決できません。
だからこそ、不幸せに過ごす人の特徴をひとつだけ挙げるなら、やはり「現役時代の延長線上で考えること」になります。過去の肩書きの続きを探している限り、新しい居場所は見つからないからです。
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。




