
どう終わらせるか、連続ドラマとして「風、薫る」が選択したもの
第129回で「リターン」という言葉が出てきて、それを頻繁に語っていた卯三郎(坂東彌十郎)を思い出した視聴者も少なくないだろう。卯三郎はもうドラマには出てこないが、卯三郎の行為を引き継いだ意外な人物――それは、シマケン(佐野晶哉)だ。
すっかり回復したシマケン。長い年月が経ったため白髪になっている。
通りで、炊き出しを探しにきた子連れのお母さんに、シマケンは卯三郎のようにチョコを渡す。手品はやらないが、買ったばかりのりんの本まで渡す。
チュウ(若林時英)の店で、虎太郎(小林虎之介)と待ち合わせ、りんの本をさかなに飲む約束だったのに、肝心の本をあげてしまった。でも、あの母子に本が役立つと思ってのこと。これも人の役に立つことを考えての好循環である。
虎太郎とシマケンはりんを巡ってのライバルであり、かたや現実主義者(虎太郎)、かたや理想主義者(シマケン)のようだったが、なぜか茶飲み(酒飲み?)友達になった。
りんと直美が性格が違うのに名バディなのと同じ感じであろう。
りんとシマケンが別れたあと茶飲み友達になっている描写ではなく、シマケンと虎太郎が友達になっている描写であるところも、このドラマの視聴者の予測を裏切りたいという創意工夫と考えたい。
そして、最後まで主要人物の言動へのリアクション要員なのかと心配だったチュウが、新作・クリームパンを披露。「世界中のうまいものを包んでパンにしちまおうと思って」や「一見合わなそうなものが合ったりするからなあ」などと、世の中を表すようないいセリフを語る。
「世界中のうまいものを包んでパンにしちまおうと思って」「それはこの国らしく節操なくていい」というシマケンの返しもよかった。
半年間のドラマを描ききるにはやや構成力に弱いところもあったものの、こんなふうに時々、いいセリフがあったのは確かで、選ばれしプロのセンスだと思う。
「おばさんみたい」
「もうとっくにおばさんでしょ」
「気づいたらおばさんになってここに座ってた」
「そうね」
りんと直美がへんに気を使わず、美談にせず、サバサバ語りあうのも、深いつきあいの者同士ならではだ。
明(西田一咲)は成長し、安(早瀬美海)は子どもが嫁いで暇になって一ノ瀬家に遊びに来ている。みんなで女性の人生双六。最近のコマには、絵師や看護婦も入っている。
いまの上がりは「一家団らん」。
どんな職業、どんな立場になっても、大事なのは一家団らん。朝ドラが「ホームドラマ」であることを示した。
縁側で、「種蒔けたかなあ」と思いを馳せるりんと直美に吹きつける花吹雪。通常のふんわりしたものではなく。なんだか少し荒ぶっている。
真風(研ナオコ)が「二人が起こした風はこの先遠くまで吹き続けるよ」と囁く。
そこへデモがあって怪我人が大勢出たという報告が入る。さっそうと出動するりんと直美。
おれたちの戦いはこれからだ、的に終わるのかかと思うと、残り時間がまだ5分ある。主題歌でこれまでの名場面の数々を映してもまだ時間は余る。
どうなるかと思ったら、最後は現代へ。
りんと直美を彷彿とさせる看護師がきびきびと働いている。
看護の黎明期をひらいたふたりの精神は現代にもバトンが引き継がれているという意味合いであろう。
りんと直美の精神はいまも生きていて、現代のふたりは患者さんの気持ちを大事に、靴を履きたい患者さんのために外を歩けるように心を配る。
最後のセリフは見上愛演じる現代の看護師の「慎重に歩きましょうね」。
「慎重に歩く」患者に寄り添う看護だけでなく、人生においても大事な心がけである
ドラマはドラマ、作り事として終わらせず、いまを生きる人達にも意味ある物語として手渡された。








