漢字と仮名
使い分けの基準

 さて、問題は残りの「こと」と「いる」です。

「こと」は名詞、「いる」は動詞です。名詞や動詞と言えば、意味がはっきりしているものですから、漢字で書かれるはずです。でも、漢字で書かれていません。

 もし、上に示した例文の「「こと」と「いる」の意味を説明してください」と言われると、困りませんか。

「こと」は、「こと」そのものに意味があるというより「珍しい」を受け止めているだけのようです。「いる」も、そこに存在する意味の「居る」というほどの明確な意味はなく、「見える」という状態であることを示しているだけのようです。

 どちらも具体的で明確な意味がなくて、形式的な意味を示したり前にある言葉をフォローしたりする役割をしています。つまり、どちらもその言葉も意味が軽いのです。

 以上のことから、漢字と仮名の使い分けに関して、次のことが言えます。

1. 漢字は意味を表す部分に使い、仮名は音声を表す部分に使うのが原則である。 
2. ただし、表す意味が明確でなく意味が軽い場合には、仮名を使う。

次回記事<「〜してほしい」を「〜して欲しい」と漢字で書く人が知らない事実>は9月29日(火)午前8時00分に公開されます。佐竹秀雄氏をフォローすることで新着記事をメールでお送りすることができます。

「お願いいたします」の
「いたす」はどう考える?

 このことを踏まえて、以下、「お願いいたします」の書き方を考えます。

 そもそも、「お願いいたします」は、敬語表現の謙譲語です。次のような使われ方をします。

*資料のご確認をお願いいたします。
*恐縮ですが、資料のご確認をお願いいたします。

「お願いいたします」は、謙譲語形式の一つの型に沿ったものです。その型は「お○○いたします」で、例えば「お送りいたします」や「お呼びいたします」と同じ型です。それぞれ「送る」「呼ぶ」という自分の行為を、へりくだって述べるときに使われます。

「お願いいたします」の場合は、「願う」という行為をへりくだって表現しているわけです。つまり、「願う」の部分を、「お願いいたします」で置き換えたと考えられます。

「お願いいたします」を単語に分解すると、次のようになります。

*お/願い/いたし/ます

「お」は接頭辞で、それ自体に意味はなく敬意を示します。「願い」は、動詞「願う」の連用形で、意味が明確なので漢字で書きますが、送り仮名が必要なので漢字と仮名になります。残りの「いたします」のうち、「ます」は助動詞なので仮名書きです。