養老 昔から言ってるんですが、「ああすればこうなる」で世界は成り立っているというのが「都市」の考え方です。でも、都市を取り巻く自然の世界では、そんな予定調和は現実にはあり得ない。自然環境はいまだに解明されていないことがたくさんある。解明されていることも含め、正しく予測することなど不可能です。毎日自然と向き合い、虫を採ってるとよくわかります。予測はもちろんするけど、思わぬことが毎回起こる。「ああしても、こうならない」のが自然なんです。

若者から人生について
聞かれた養老孟司の答え

柳瀬 インターネットの発達とAIの普及で、むしろますます未来を予測しよう、シミュレーションしよう、それでリスクを最小限にしよう、という傾向は、社会全体でも出てきていますね。

養老 シミュレーションしても構わないんだけど、その結果、思い切った行動に踏み切れないとしたら、もったいない。とくに若い人たちが。この間も、うちに大学生がやってきて、「いい人生とは何ですか」「生きるってどういうことですか」と大真面目に聞いてきました。悩んでいるのでしょうね。

柳瀬 どう答えたんですか?

養老 ぼくに言わせれば答えは一つです。

柳瀬 ?

養老 「生きてみなければわからない」です。

柳瀬 ばっさり。

養老 まだ若いのに、生きてきた時間も短いのに、それで「いい人生とは何か」なんていくら考えてもわかるわけがない。キリスト教に「最後の審判」ってあります。あれは非常によくできた話です。なにしろ「自分の人生が良かったか悪かったか、この世が終わるまでわかりません。そのときに最後の審判がくだるから、全員集合しなさい」というんですから。おちおち死んでもいられない。

柳瀬 「いい人生とは何か。死ぬ直前までわからない」。養老さんの答えに通じますね。人生を生きてみる前に、いい人生とは何かを先に考えるようでは、「雪男を探しに行こう」なんて発想もわいてこないでしょうね。

『虫とマンガと日本人 養老孟司のキャラクター論』書影『虫とマンガと日本人 養老孟司のキャラクター論』(養老孟司、柳瀬博一 PHP研究所)

養老 思い出したけど、小川先生はネパールに行くついでに、ガンジス河のカワイルカを捕まえて、上野の不忍池に流すつもりだった、なんて話も聞きました。イルカの脳を調べていた関係じゃないかと思いますが。ぼくはそんな小川先生の孫弟子なわけで、大師匠を見習って当たり前のように変なことをしています。

柳瀬 小川先生、今だったらそのまんまマンガのキャラですね。いや、「あまりに現実離れしているからこのキャラじゃダメ」と編集者にダメ出しされるかも。

養老 マンガブーム以前の時代は、研究者の現実がマンガみたいだった。だからでしょうね。マンガがどれほど現実離れした奇想天外のことを描いても、ちっともふしぎだとか、バカらしいとか、思わない。人生、こんなもんだろう、と。