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「仕事を抱え込む人」は、組織にとって迷惑な存在――。そう考えるのが普通だろう。ところが、業務を標準化し、ノウハウを共有する「合理的な改革」が、思わぬ弊害を生むことがある。なぜ社員は、自分の仕事を簡単に人に教えたがらないのか。「教えたら、自分がいらなくなる」という本音から、日本企業を支えてきた意外な仕組みが見えてくる。※本稿は、組織学者の太田肇『なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか』(日本経済新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
「業務をブラックボックス化する」
というよくある生き残り戦術
特定の取引先を優遇して、その後で自分がその会社に転職するといった明確な背任行為は論外としても、自分の市場価値を高めるための「囲い込み」は日常的に行われている。
例えば、特定の資格取得に有利な部署に留まり続けるため、あるいは自分がいなければ現場が回らない状況を作り出すために、業務を意図的に「ブラックボックス化」するケースだ。
自分にしか更新できない、複雑怪奇なマクロが組まれたエクセル・ファイル。マニュアルには一切記載されていない、長年の経験者だけが把握している取引先との「裏ルール」。システム運用の土壇場でしか役に立たない、ちょっとした勘所。これらを独占し、後進への継承を拒むことで、彼は「余人をもって代えがたい存在」としての地位を確立する。
会社側は、こうした暗黙知を可視化し、組織の資産として共有(技能伝承)したいと願っている。
昨今ではAIを用いて熟練工の技をデジタル化する試みも盛んだが、当の本人にとっては、自分の「技」を公開することは、自らの交渉力や再雇用の切り札を失うことを意味する。多大な見返りや制度的な地位の保証がない限り、彼らが自発的に「虎の子」の秘技を差し出すことはなかろう。







