「子どもの前では、できるだけ穏やかに過ごしたい」。そう思っていても、忙しい毎日のなかでは、家族同士でイライラしたり、つい感情的になったりすることもあるだろう。
しかし、子どもは大人が思っている以上に、家庭の空気を敏感に感じ取っているという。しかも、ある家族の関係性が続くと、子どものストレス反応や、その後のメンタルにも影響する可能性があることが研究からわかっている。では、子どもの前で避けたい家族の関係性とは? 『医師が教える 子どもの習慣50の基本』から一部抜粋してお届けする。(ダイヤモンド社書籍編集局)

思春期に「メンタル不調になりやすい子」の家族の関係性・ワースト1【小児科医が解説】Photo: Adobe Stock

子どもの前で夫婦ゲンカはしないで

 子どもの前でのいい合いやケンカは絶対にやめましょう。穏やかに話し合うのが一番ですが、それでは収まらず口論になるなら、子どもがいないところでやりましょう。

 ただし子どもは寝たあとでも、聞き耳を立てていることもありますからご注意を。

険悪な雰囲気は、赤ちゃんにも伝わっている

 親のケンカを見聞きすると、心身によくない影響を与えることが医学的にわかっています。赤ちゃんのうちは、親のケンカなんて伝わらないだろうと思うかもしれません。しかし実際は、赤ちゃんの自律神経系に確実に影響します(1,2)。

 赤ちゃんは、自分の周囲で起きていることすべてを見て、聴いて、感じています。周囲の不穏な空気もちゃんと感じ取り、自律神経が緊張モードになります。生後3~12か月くらいには、周囲の状態を感知して「自分がいるのは安全な場所かどうか」を判断する力が備わっています。

 そして、赤ちゃんがストレスを感じているかどうかは、生理的な測定で確かめることもできます(3)。

 息を吸うと心拍数が増えて、吐くとゆっくりになる現象をRSAと呼びます。RSAを測ることで、自律神経は安定しているかどうかがわかります。RSAが高いほど自律神経は安定しており、低いと、自律神経のバランスが乱れてストレスの影響が出ていることを示します。

 米国のペンシルバニア州立大学から2011年に発表された研究では、お母さんと生後6か月の赤ちゃん48組を対象にした調査が行われました。その結果、家庭のなかが不穏だと赤ちゃんのRSAが低くなっていたことが示されました(4)。

親のケンカを見て育った子どもは、メンタル不調になりやすい

 米国の研究で、いつも夫婦ゲンカを見ている子どもはストレスホルモンであるコルチゾールが増えるため、思春期や成人になってからメンタル不調になりやすいという結果が示されています(5)。

 当クリニックに来る家族のなかには、大人と子どもが怒鳴り合うケースもあります。夫婦間で声を荒らげてケンカすることもあります。

 また、発達特性のある子どもは大人の指示にうまく従えないため、「いうことを聞かない」と腹を立てた大人が子どもに手を上げるケースもしばしば聞きます。残念ながらこれは、確実に子どもに悪影響を及ぼします。

 しかし、これまでを思い返して罪悪感を覚えた方は、「過ぎてしまったことは仕方がない」と切り替えてください。罪悪感を抱き続けると自分自身のメンタル不調のリスクが上がり、危険です。

 もしご自身の罪悪感が強いと感じたら、その思いを意図的に手放すようにしてください。

子ども以前に、自分の健康を整えよう

 子どもは赤ちゃんのときから周囲の状況を敏感に感じ取り、ストレスを抱いています。大きくなっても、子どもの心理的安全性を担保しないと、心身ともに健康に育ちません。

 それは大人が我慢すればよいということではありません。両親が子どもの前で争わないためにも、大人も心身ともに健やかでいることが大切です。

 まずは栄養や睡眠を見直してみることから始めませんか? カッとしてしまったら、

 ●深呼吸をする
 ●いったんその場を離れる

 など、心を落ち着かせる工夫もおすすめです。
 まずはあなた自身の、心身の健康を守ってくださいね。

1 Panksepp J. The long-term psychobiological consequence of infant emotions: Prescriptions for the twenty-first century. Infant Mental Health Journal. 2001;22(1-2):132-173.
2 Pollak SD. Early adversity and mechanisms of plasticity: Integrating affective neuroscience with developmental approaches to psychopathology. Dev Psychopathol. 2005;17(3):735-752. doi: 10.1017/S0954579405050352.
3 Propper C, Moore GA, Mills-Koonce WR, et al. Gene-environment contributions to the development of infant vagal reactivity: The interaction of dopamine and maternal sensitivity. Child Dev. 2008;79(5):1377-1394. doi: 10.1111/j.1467-8624.2008.01194.x.
4 Moore GA. Parent conflict predicts infants’ vagal regulation in social interaction. Dev Psychopathol. 2010;22(1):23-33. doi: 10.1017/S095457940999023X.
5 Cummings EM, Davies PT. Marital conflict and children: an emotional security perspective. New York: Guilford Press; 2011.
伊藤明子(いとう・みつこ)

赤坂ファミリークリニック院長/小児科医/MD,MPH/BCIA認定ニューロフィードバック認定医
NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。東京外国語大学卒、帝京大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科修了。医師になる前から同時通訳者として天皇陛下や歴代首相、米国大統領の通訳を務め、現在も医学系会議を中心に活動している。通訳の仕事をしながら2児をもうけたあと、40歳で医学部を受験し、医師に。卓越した英語力を武器に、海外の学術論文から日々最新の情報をアップデートしている。メディア出演も多く、わかりやすい説明と親しみやすい人柄で子どもはもちろん、その親からの信頼も厚い。著書に『医師が教える 子どもの食事 50の基本』(ダイヤモンド社)などがある。