『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第84回では、パートやアルバイトの役員登用について解説する。
「内部留保多すぎ!」株主からの指摘を打ち返した、創業社長のひと言
外資系ファンド・サンデーキャピタルによる買収提案を拒否するため、あえて臨時株主総会を開催し、自社の正当性を株主に主張しようと奮闘する新興アパレルメーカー・T-BOX。
総会ではサンデーキャピタルの福沢ウィリアム太郎が、T-BOXの海外展開が迷走していると指摘。それに対してT-BOXの創業社長である花岡拳は、現地人材の採用や現地での消費を徹底した「地産地消」のビジネスモデルこそが重要であると真っ向から反論する。
そんな花岡の回答に、T-BOXの大株主である塚原為ノ介は拍手を送る。塚原の顔色を伺うように、他の株主たちも、花岡の意見を支持し始める。
だが福沢は攻撃の手を緩めない。今度はT-BOXの内部留保が多いことを指摘。株主に対して配当金を出すように要求する。塚原以外の株主たちは簡単に手のひらを返し、今度は福沢の意見に賛同して、花岡に野次を飛ばし始める。
だが、花岡にはこの要求への対抗策があった。花岡は今や専務取締役で技術部門の統括責任者となった片岩八重子(ヤエコ)を株主たちの前に立たせ、彼女のキャリアを紹介するのだった。
ヤエコは18歳でT-BOXの前身となる縫製工場に就職し、以後30年もの間、この道一筋でやってきた。縫製工場のいち従業員から上場企業の取締役という夢を実現できるT-BOXの働き方こそが、世の中から「魅力ある仕事」として認められる。だからこそ、内部留保はパートやアルバイトの正社員化に向けての準備資金として必要であると株主たちに説くのだった。
「アルバイトから社長へ」“夢”のある会社が強いわけ
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
ヤエコの成功体験は、彼女だけのものではない。「ここで働けば、こんな未来を目指せる」というT-BOXの魅力そのものだ。花岡はそう主張して、株主の心をつかもうとする。
実は現実においても、パートやアルバイトから経営陣にまで上り詰めたケースもある。この数年で最も話題になった事例を挙げれば、カレーチェーン「CoCo壱番屋」のフランチャイズ店舗などを運営するスカイスクレイパーの代表取締役社長・諸沢莉乃氏の事例ではないだろうか。
諸沢氏は高校1年生だった15歳で同社が運営するカレーチェーン「CoCo壱番屋」のフランチャイズ店舗でアルバイトを始めた。その後も現場で経験を重ね、24年に22歳で社長に就任した。正社員を経験せず、アルバイトからいきなり社長に抜てきされた異例の人物として、メディアでも話題になった。
似た事例はほかにもある。同じ飲食業界では、吉野家で19歳からアルバイトとして働き始めた河村泰貴氏(現・同社会長)も、正社員や子会社社長を経て、43歳で吉野家ホールディングス社長に就任した。なお、河村氏の先代となる安部修仁氏もアルバイト出身で社長・会長となった人物だ。
今回の漫画を読み進めれば、花岡の発言が株主を御するためにうった「芝居」であることも示唆されるが、それでも、ヤエコの実現した“夢”は、T-BOXが人を惹きつける魅力の1つになるのは間違いない。
舌戦の続く花岡と福沢。だが肝心の大株主、塚原はその議論も聞かず、居眠りをするのだった。次回、目をさました塚原が、花岡にある問いを投げかける。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







