Jさんは、最初の6カ月をひたすら現場を回ることに費やしました。製造現場、営業、物流。各部署の責任者と膝を突き合わせて話を聞き、「なぜこのやり方なのか」を理解しようとしました。

 その上で、Jさんはこう提案したのです。

「まず、エクセルで簡易的な部門別管理から始めましょう。投資はゼロです。3カ月試してみて、経営判断に役立つかどうか検証しましょう」

 小さな成功を積み重ね、経営者と現場の信頼を獲得したJさんは、3年後には段階的にシステムを導入し、会社の業績向上にも貢献されました。今では、その会社になくてはならない存在となっています。

 HさんとJさん。同じようなバックグラウンドを持つ2人の違いは何だったのでしょうか。

 それは、謙虚さと柔軟性でした。Jさんは「学ばせてください」という姿勢で新しい環境に臨みました。理想と現実のギャップを受け入れ、いきなり完璧を求めませんでした。一方、Hさんは「自分のやり方が正しい」という信念を曲げられませんでした。

成功体験と完璧主義が
人生の後半を重くする

 まず手放すべきは、「過去の成功体験への過度な執着」です。

 私たちは、過去にうまくいった方法をできるだけ繰り返そうとします。それ自体は自然なことです。しかし、時代が変わり、環境が変われば、同じ方法が通用するとは限りません。にもかかわらず、「あのときはこうやってうまくいった」という記憶に縛られて、新しいやり方を受け入れられないことがあります。

 過去の成功は、確かに誇るべきものです。そして、それを手放すことは、その価値を否定することではありません。むしろ、「あのときはあれでよかった。しかし今は違う」と認めることです。過去を尊重しながらも、それに縛られない柔軟さを持つこと。それが、手放すということなのです。

 次に手放すべきは、「完璧主義」です。

 会社人間として生きてきた私たちの多くは、完璧であることを求められてきました。ミスは許されない。常に最高の成果を出さなければならない。そうした緊張感の中で、私たちは完璧主義を身につけました。

 しかし、完璧主義は心を疲弊させます。常に完璧を目指すということは、常に自分を追い込むということです。そして、完璧でない自分を許せなくなります。

 人生後半に必要なのは、完璧さではなく、「ほどほど」の感覚です。「これくらいでいい」「まあ、こんなものだ」。そう思えることが、心の余裕を生みます。完璧でなくても、それで十分なのだと認めること。それが、完璧主義を手放すということです。

 たとえば、定年後に始めた趣味。最初から完璧を目指す必要はありません。下手でもいい。楽しめればいい。その「ほどほど」の感覚が、実は人生を豊かにしてくれるのです。

 家事も同じです。掃除は毎日完璧にしなくても、週に1回でもいい。料理も、レトルトを使ってもいい。「80点でOK」という感覚が、心を楽にしてくれます。