映画『ファーストボイス』で主演を務めた綾瀬はるかさん映画『ファーストボイス』で主演を務めた綾瀬はるかさん Photo:JIJI

日本初のセクハラ裁判として知られる実際の訴訟に着想を得た映画『ファーストボイス』が公開された。セクハラというと性的な欲望を連想しがちだが、本作で描かれる加害者の動機はそうではない。しかもこの人物はごく普通の夫であり父親であることも描かれている。約40年前の出来事を描いた映画から、現代の職場にも通じるハラスメント問題の本質を考えたい。(フリーライター 鎌田和歌)

「クリスマスケーキ」と言われ
25を過ぎると“売れ残り”扱い

 職場で、自分より後から入ってきた人が高く評価される。自分が目指していたポジションに、別の誰かが抜擢される。部下やアルバイトから自分よりも圧倒的に慕われている後輩がいる。

 そんなとき、面白くないと感じた経験はないだろうか。

 嫉妬や劣等感は、誰もが抱きうる感情だ。しかし、その感情が他人への攻撃に変わるとき、何が起きるのか。

 綾瀬はるか主演映画『ファーストボイス』が描くのは、そんな人間の弱さでもある。

 セクシャルハラスメントをテーマとする本作の鑑賞者はおそらく女性が多いだろう。しかし男性が見ないとしたら、もったいないと感じる。

 というのも本作は、前例のない裁判に弁護士たちが立ち上がり、勝訴を勝ち取り、社会の「常識」を変えていくサクセスストーリーでもあるからだ。ハラスメントや労働問題は、男性にとっても無関係ではない。

 扱われているテーマがセクハラだからといって、男性が「自分たちはお呼びではない」とか「男が責められているなら見たくない」と考えてしまうのなら残念である。

 そもそも、舞台となるのは昭和から平成へと時代が変わった頃。1989(平成元)年の流行語大賞は「セクシュアルハラスメント」だったという。当時、女性はクリスマスケーキと言われ、25歳を過ぎて独身の女性は「売れ残り」扱いだった。

 大手企業がノベルティにヌードカレンダーを配り、それを会社の机に置く人もいた。挨拶代わりに女性の体を触ったり、女性に性経験を聞いたりすることが当たり前のように行われ、こういった風潮に反発すると「息抜きもできないなんて」と、反発するほうがおかしいかのように言われていた。

 令和の現在、こうした振る舞いを公然と正当化することは難しくなっている。

 わずか数十年前に、こうした職場環境が確かに存在していた。現代史の一場面として知っておく価値がある。このような時代を経て現在のコンプライアンス重視の社会があると考えると、その意味も違って見えてくる。

「美人だからしょうがない」
セクハラ被害を訴えた女性への仕打ち

『ファーストボイス』では、裁判を起こす原告女性をファーストサマーウイカ、彼女の訴訟を担当する弁護士を綾瀬はるか、その同僚弁護士を松本穂香が演じている。

 原告女性は、勤めていた出版社で編集長の男性から性的中傷を流されるセクハラ被害に遭い、それを社長に訴えたところ、逆に「君に問題がある」と職場を追われてしまう。

 性的な中傷とは、「複数の男と寝ている」「男遊びが激しい」「女なのに毎晩飲み歩いている」といった内容だ。

 解雇は不当だとして社長と編集長を訴えようとするのだが、最初は弁護士に相談しても、労働基準監督署に足を運んでも、まともに取り合ってもらえない。

 親身になって話を聞くどころか、「言われるうちが華」「あなたが美人だからしょうがない」などと言われてしまう。

 唯一、真剣に話を聞いてくれるのが綾瀬はるかが演じる女性弁護士事務所。だが、そこで言われるのは、まず自分で支援者を集めること、である。なかなかのハードモードだ。

 この裁判の原告女性にインタビューした記事を読むと、これらはフィクションにする上での脚色ではなく、実際の体験に基づいていることがわかる。