ここまでは新興国のインフラ開発ではよくある話だが、問題はその後のインドの対応だ。

 インドは高速鉄道の中核である信号・通信システムを、日本企業ではなく、ドイツのシーメンスとインド企業DRAインフラコンなどの企業連合に発注したのだ。受注額は約414億ルピー(約690億円)にのぼる。

 2015年の日印合意では、日本の新幹線システムの採用が確認され、車両、信号、運行管理などの分野で日本の技術を導入する構想だった。実際、国土交通省も2021年、信号・通信設備などの一括発注を前提に、日本企業の参入を促す専門会社の設立を発表していた(参考資料https://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo06_hh_000109.html)。

 ところが、インドは欧州方式の信号設備を採用した。日本側はこれを当初合意からの逸脱と批判する一方、インド側は日印双方の協議に基づく決定だと説明した。

 シーメンス陣営が導入する「ETCSレベル2」は欧州で実績のある列車制御方式であり、日本独自のシステムに縛られたくないというインドの意図もうかがえる。地元企業との共同受注であり、モディ政権の「メーク・イン・インディア(自国での製造業育成)」にも合致する。

 だが、新幹線方式の導入を前提に破格の円借款を引き出しながら、中核システムの調達先を変更することは、日本側から見れば「後出しジャンケン」に等しい。

 牧原秀樹元法相は2026年7月、Xで事業が進展しない原因は「100%インド側のせいだ」と主張する投稿をした。JR東日本を中心とする日本の参画企業は動揺し、日本政府は外務省内にこの事業を専門に監督する担当者まで配置。懸念と怒りは深まる一方だ。

日本の新幹線に欧州の信号とインドの車両…安全性は大丈夫か?

 日本の新幹線は、車両・信号・線路・運行管理を一体として設計し、高度な安全性と定時性を実現してきた。一部を別方式に替えれば、システム全体の安全性を改めて検証しなければならない。

 前出のFTの記事によれば、日本側はまさにこの点を訴えている。日本の軌道に欧州の信号、インドの車両を組み合わせた「混成システム」には、十分な実績がないというのだ。

「後出しジャンケン」は信号にとどまらない。インドは車両についても日本以外からの調達を探った。日本側が必要な49編成を2000億ルピー(約3300億円)で提示した一方、インドは欧米メーカーからより安く調達する案を検討したと報じられている。