無音の世界で聞こえたもの

 小学生のある冬、不思議な音を聞きました。

 夜中にふと目を覚ましたら、きーーーんと、耳鳴りがしました。家族も寝静まり、車も通らず、風の音もない、とてもとても静かな夜だったのです。

 耳鳴りが治まってしばらくしたら、微かな音が聞こえてきました。文字で表現すれば、そう、「しんしん」と。

 しばらく「何の音だろうか?」と考えていました。それまで聞いたことのない音で、少し遠くのほうから、でも周りじゅうからその音は聞こえてきました。

 そして突如、気がつきました。ああ、これは雪が降り積もる音なのだ、と。

 郷里の福井では湿った大きな雪が降ります。牡丹雪(もしくは、ぼた雪)と呼ばれる、直径が1~3cmにもなる大きな雪です。風のないその夜、雪は静かに静かに、でも間断なく、わが家の周りに降り積もっていました。

 雪は本当に、しんしんと降るのです。小学生の耳は、確かにその微かな音を捉えていました。その背後の、圧倒的な無音の世界の中で。