**事業としての精度を高める

「まずは本来、経営企画がどういうものなのかということを理解しなければいけない。そのためには、事業の成長と共に、組織というものがどう組み立てられていくかという話からしなければならないな」

 安部野は話をはじめた。

「君の会社を例にして話をしよう。君の会社、しきがわの創業者は、今の社長の父上の四季川保さんだったな、この人が百貨店で買うよりも安い価格でスーツを販売する商売を創業したところからはじまる。最初は、この『成功した創業者』である四季川さんと、せいぜいもう一人か二人くらいで、商売をはじめたのだろう」

「しきがわの創業時の話は、入社時のオリエンテーションで聞きました。この事業の前にも、いくつか商売をやっていたけど、そんなに儲からなかったと。そんな時に、当時、1着の値段がサラリーマンの1ヵ月分の給料くらいの価格だったスーツを、メーカーに行って直接仕入れてくれば、もっと安く売れるだろうと考えて、それまでやっていた商売をやめて、スーツを安く仕入れてきて売りはじめたそうです。その時は、今の四季川保会長と、弟さんの二人だけで最初の店をはじめたそうです」

「そうだろうな。そして、四季川さんご自身が自分の頭で考え、いろいろ試行錯誤を繰り返しながら、どんな価格、どんな柄やデザインのスーツが求められているのか、どうしたら安く仕入れられるかなど、商売を通して学習しながら、事業としての精度を高めていったわけだ」

 高山は、事業としての精度を高める、という表現をはじめて聞いたが、なんとなくその意味はわかるような気がした。

「そして、商売がうまくいき、店が繁盛してくると、客数も増えるし、出納の管理もしなければいけなくなる。さらに仮に2店舗目の話が出てきたりすれば、ちゃんと担当を決めて動かさなければいけない事業規模になってくるわけだ」

「そうですね。店での接客販売以外に、仕入れ、それから、売上や在庫の管理もありますし、毎日、誰が何時に出勤するのか、なんていう勤務シフト時間の調整もあります。今の店長が毎週書いている本社提出のための営業報告書の作成も、かなり大変そうですよ」

「そうだな。君も販売の現場にいたから、そういう販売以外のことにどれだけ時間をとられるのかもわかっているはずだ。まずはじめの段階で、何人かの店舗のスタッフで、出勤管理、在庫管理、出納管理などもそれぞれ担当するようになっていったはずだ」

 高山は、自分の勤務していた店でも、販売メンバーがそれ以外にもいろいろな管理業務を分担して、兼務していたな、と思った。