あるブラック企業と世間から叩かれている会社の企業理念集を友人に見せてもらった。細かい字で200ページ以上あるから、とても全部読めたもんじゃない。でも社員は、この理念集のテストがあるらしいのであちこちにアンダーラインが引いてある。ここがテストに出るのだろう。
最初のページに孔子の言葉
最初のページになんと孔子の言葉が出ていた。
子曰わく、民はこれに由(よ)らしむべし。これを知らしむべからず。
(先生が言われた、『人民は従わせることはできるが、その理由を知らせることはむつかしい』)
(泰伯第八 論語 金谷治訳注 岩波文庫)
その理念集によると、
「『民衆というものは服従させておけばよいのであって民衆に智恵をつけてはいけない。民衆に知らせてはいけない』と間違った解釈をする人もいますが、本当は『民衆というものは、なかなか本当のことを理解させようとしても理解できないものである。だから政治家はとにかく、理由の何たるを問わず、あの人の言うこと、あの人のすることならば間違いはないであろう、私はあの人を信じてあの人に任せる、というふうに信頼される人間になれ』という意味です。」
と解釈され、すぐこう続く。
「何でもかんでもとは言いません。今まで全社員が真面目に取り組んできたこと、そして信頼できる上司が『やろう』と言ったこと、大変だけどやらない理由の見つからないこと。そんなことには疑問を持たずに、真正面から取り組む社員であってほしいなと思います。」
私 「良いこと言うよね。これでなぜブラック企業なの?」
友人「孔子の言葉って短くなればなるほど難しいですよね。宇野哲人『論語新釈(講談社学術文庫)によると『聖人は人に教えるためには家ごとに説明してまわることを欲しないのではないけれども、一般の人民には理由を話してもわからないから、ただ人の行うべき道によって違わないようにさせるだけである。』と解説されています。要するに説明しても道というのは理解されないから、聖人がその道を歩むことで教えなければならないってことでしょうか」