あるとき、人事部の計らいにより、我がボスと、日ごろめったに話す機会のない若手社員たちとの懇親会が開催された。
企業のトップとぜひとも話がしたい、意見交換をさせてほしい、という意欲ある社員たちからの熱烈な要望により実現した懇親会であったが、そこで思いがけず、すっかり重たくなった組織の大きさを実感することとなった。
若手社員と上層部
との「温度差」
会社がある時期に急成長したために、上層部には社歴の長い人が少なく、超大手企業からヘッドハンティングしたスペシャリストが比較的多く集まっているのが、我が社の特徴でもある。そのため、我がボスの経営姿勢に憧れて入社した若い社員たちと、その上層部との間には感覚の違いがあるらしい。
そんな若手社員たちとの懇親会。我がボスは、日ごろから役員たちにはもちろん、株主やマスコミに対して話すように、今の我が社における壮大なる夢とそれが実現した社会について目を輝かせながら語りはじめた。
「この商品は世の中を変えることになるぞ! 市場も今の数十倍になり、人々の生活習慣をも変えることにだってなる。我が社がどこよりも先駆けてそれに取り組むんだ! 君たちもそう思わないか?」
それを聞いた社員たちも大きくうなずく。そして、いつかくる新しい時代に思いをはせながら、皆ボスの話に耳を傾けていた。
しかし、何か言いたげで気まずそうにしている社員がいることに気づいたボスは、その社員に声をかけた。
「どうした? 君はどう思う?」
入社してまだ数年のその社員は小さな声で話しはじめた。
「私もS社長のおっしゃることをホームページで拝見し、大いに共感しました。社会を変えるような大きな事業に関わりたくて、この会社に入社しました。でも……」
「でも、どうしたんだ?」
ボスに促されて、その社員はおそるおそる続けた。
「S社長の考えていらっしゃることと、現実に自分の直属の上司たちから伝わってくることは大きくかけ離れているように感じるのです」
「かけ離れている? それはどういうことだ?」
すると、ほかの社員たちも口を開きはじめた。
「私もそう感じています。上司からは、そういう夢のある話はまったく聞くことができません」
何人かの社員たちも控えめにうなずきはじめた。
「私たち企画部門での新しい販売施策の提案も、ほとんどがつぶされてしまいます。先日の企画会議で、今までにないまったく新しい施策の提案をしました。たとえば……」
「ほ~う。それは、面白いじゃないか! 今までそんな施策はやったことがない。サンプル数は少なくして、実験的にぜひやってみたらいいじゃないか」と我がボス。