今年もあと3ヵ月。来月後半には2013年のヒット商品番付なども発表されます。6月には出された上半期のリストを見ると、アベノミクス効果が消費マインドを刺激したとして高級・高額な商品が並びました。とは言え、一般の消費者の財布の紐が緩んでいるわけではなく、増税も見据えた状況では消費者心理もより複雑なものになるでしょう。今回紹介するのは、消費者の「心」と「脳」を理解することをベースとした、革新的なマーケティングを世に知らしめた一冊です。

マーケターの失敗は自分自身と消費者の
心の相互作用を理解しないことで生まれる

ジェラルド・ザルトマン著、藤川佳則/阿久津聡 訳『心脳マーケティング――顧客の無意識を解き明かす』
2005年2月刊行。カバーに描かれているハートの中の水平線は傾いて見えますが、実際は並行という「カフェウォール錯視」効果を用いています。
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 ジェラルド・ザルトマンはハーバード大学市場心脳研究所所長として、神経科学や心理学を取り入れた学際的なマーケティング・アプローチの手法を開発している著名な研究者です。本書『心脳マーケティング――顧客の無意識を解き明かす』の原題は“How Customers Think”(2003)は、非合理的な人間の意思決定過程を分析し、無意識下の行動を解読しつつ、マーケターの先入観の誤りを指摘します。 

 ザルトマンは第1章でまず、「慣れ親しんだマーケティングからの脱却」を説いています。

(略)我々は消費者に欲しいものを尋ね、それを提供するのであるが、彼らが競合他社の製品に飛びつくのを目のあたりにしてしまう。これは、どうしてだろうか。新製品や新サービスのうちの約80%が6ヵ月以内に失敗し、見込んだ利益を得ることができないのは、なぜだろうか。現行の製品やサービスのライフ・サイクルが短縮化するにつれて、企業は収益を伸ばすために新製品を必要とする。ところが、新製品が失敗した時のコストは高くつき、収益の減少や顧客満足の低減、従業員モラルの低下などにつながってしまう。(21ページ)

 まったくそのとおりで、「限界生産力逓減の法則」と「収穫逓減の法則」が観察されるごく普通の市場で、企業は収益の増加率が減少に転ずる頂点を見越して、必ず新製品を投入することになります。すべての生産計画はこの1点の予測に依存するのです。もし新製品の投入に失敗すると、回復するまでに予想外の時間がかかることになります。

 信じられないかもしれないが、失敗の理由は、あまりにありふれた、一見単純にさえ思える事実にある。それは、あまりに多くのマーケターが、自分自身の心と消費者の心がどのように相互作用を起こしているか理解していないという点にある。(21ページ)