消費者は無意識的な思考や感情から影響を受ける
動かすのに必要なのは脳科学的な知見

 ザルトマンは、マーケターが自分たちの思考プロセスと消費者の思考プロセスの相互作用を理解すべきなのに、実行されていないと指摘します。

 それは「信奉している理論」(信奉理論)と「実際に使用している理論」(使用理論)の違いであるという。(略)そして多くの場合、マネジャーが真に信じているのは使用理論のほうである。(略)市場調査の80%以上は、新たな可能性を試すことや、発展させるためのものではなく、主としてすでにある結論を強化するために使われている。(略)結果的に「使用理論」として組織に温存されるパラダイム(世界がどのように動くかに関する世界観、ひいてはマーケティング活動を規定する世界観)によって、マーケターは消費者を効果的に理解し、彼らに奉仕することができなくなってしまっている。(25-26ページ)

 そして新しい神経科学的なアプローチを提起するわけですが、その前に「使用理論」の誤りを6点挙げて読者のアタマをシャッフルします。

【誤った使用理論】
1. 消費者の思考プロセスは筋の通った合理的・直線的なものである
2. 消費者は自らの思考プロセスと行動を容易に説明することができる
3. 消費者の心・脳・体、そして彼らを取り巻く文化や社会は、個々に独立した事象として調査することが可能である
4. 消費者の記憶には、彼らの経験が正確に表れる
5. 消費者は言葉で考える
6. 企業から消費者にメッセージを送りさえすれば、マーケターの思うままにこれらのメッセージを解釈してくれる
(26-33ページ)

消費者の思考プロセスを踏まえた上での消費者分析。
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 これらは誤りであり、消費者は無意識的な思考や感情からより大きな影響を受けている、とザルトマンは強調します。したがって脳神経科学や認知科学の知見が重要になるというわけです。

 この連載の第19回で紹介したアントニオ・ダマシオ『感じる脳』(2005)でもほぼ同様のことが書かれていました。人間の感情(feelings=喜怒哀楽)は高次の表出であり、最初の反応は身体を舞台とする情動(emotions)で、意識の前に出現する身体反応。情動が脳マップを形成し、記憶の中から適応するマップを参照して感情が出てくる。感情は心を舞台に現れる。情動はより根源的で、免疫系のような生命維持システムの一部だということです。