水滸伝で宋江の参謀として活躍したのは呉用という人物だ。

 この人物の見事な参謀としての振る舞いは、「週刊ダイヤモンド」などを愛読する企業の企画スタッフの参考になるに違いない。もしあなたが経営者なら、呉用のような参謀をどんなことをしても探し出して部下にすべきだろう。

 またあなたが素晴らしい上司に恵まれて参謀として引き立てられているなら、その参謀としての人生を全うすべきだろう。ゆめゆめ、自分がその上司を押しのけてトップに立とうなどと思わぬことだ。

裏切るな、媚びへつらうな

 呉用は、東渓村に住んでいた。優れた軍師だが、召しかかえられることはなかった。

 彼の優れた点は、「謀略は敢えて諸葛亮を欺り、陳平も豈(あ)に才能に敵せんや」と評価されるほどだ。

 彼は、仲間の晁蓋らと強盗を働き、お尋ね者になる。あわや逮捕されるという寸前に、のちに梁山泊のトップになる宋江に助けられる。その頃の宋江は、晁蓋と義兄弟の契りを結んでいたものの、単なる小役人だった。ただし彼らのような世の中から外れた人間たちには及時雨宋公明と呼ばれ、尊敬されていた。

 九死に一生を得た呉用は、後に宋江を梁山泊に迎えいれ、彼の参謀となり、数々の窮地を救う。

 呉用のすごさは、論語でいう次の言葉通りなのだ。

 「子路君に事(つか)へんことを問ふ。子曰はく、『欺くことなかれ、而(しこう)して之を犯せ』。」
(憲問第十四)
(子路が君に仕える道を問うた。孔子「誠意を尽くして君を欺くな。而して君の顔色を犯して諫争せよ。)
(論語新釈・宇野哲人著・講談社学術文庫)