フォードのムラーリCEO(右)は公的支援はいらないと宣言している。左隣はGMのヘンダーソンCEO。Photo (c) AP Images |
ゼネラル・モーターズ(GM)の連邦破産法第11条(チャプターイレブン)適用申請と一時国有化の決断に当たって、オバマ政権の自動車問題タスクフォースは「ある負の副次効果の有無を検証した」(関係者)。
それは、政府管理企業となったGMが価格競争を仕掛けることで、自力再建の可能性が残る唯一の存在であるフォード・モーターまでをも破綻へと追い込んでしまうのではないかというシナリオだ。
市場から退散すべき企業がチャプターイレブンでかろうじて生き残り、ゾンビ企業となって価格競争を仕掛け、業界の泥仕合が深刻化する――。これは実際に米航空業界で起きていることだ。しかも今回はGMが一時的に国有化されるシナリオであり、「民業圧迫」という米国人が最も忌避する展開になりかねない。
ただ、結論からいえば、「GMの清算コストと秤にかけて、この視点は封印された」(関係者)という。フォードもGM一時国有化については表立って反対していない。同社自身、政府支援を得ずに、このまま走り続けられるのか不安を抱いているからかもしれない。
フォードは今年1~3月期決算で、赤字幅が大幅に縮小(前期比)。その後、約100億ドルの債務削減と公募増資による16億ドルの資金調達にもこぎつけた。だが、3月末時点で164億ドルの債務超過であり、再建は道半ばだ。米国市場では最近、GMやクライスラーの顧客が流れてきたことなどもあり、フォードの販売の減少幅は縮小しシェアも微増傾向にあるが、それでも5月の販売台数の落ち込みは前年比で20%を超え、苦境は続いている。
GMの一時国有化を決めたオバマ政権にとって、なにより避けたいシナリオは、このフォードの救済にも動かなければならなくなることだろう。負債総額は日本円にしてGMの約16兆円を凌ぐ約20兆円。大手金融関連会社を抱えている点もGMと同じであり、経営危機が再燃すれば、オバマ政権も見捨てるわけにはいかない。
目下のところ、フォードの首脳陣は「公的資金は求めない」との姿勢を崩していないが、3年前に金融団が設定した100億ドル強の融資枠にもすでに手をつけてしまっている。そうしたなか、5月には、旧部品製造部門であるビステオンがチャプターイレブンの適用を申請した。フォードも追加支援を余儀なくされる見通しだ。
振り返れば、GMピラミッドの崩落も、まずグループの部品会社デルファイの経営破綻から始まった。ビッグスリーの最後の砦にも、暗雲は急速に立ち込めている。
(ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司)