ダイヤモンド社刊 上下巻各1800円(税別) |
「企業にとってイノベーションは不可欠の機能である。それは重大な社会的責任の一つである。だがそのためには、人が変われるようにしておかなければならない」(『現代の経営』)
学ぶ力は、加齢によって低下しないことが明らかになっている。しかし人は学べば学ぶほど、学んだことを捨てられなくなる。したがって学ぶ能力とともに、学んだことを捨てる能力を身につけなければならない。
人は変化に抵抗するとの産業心理学者の説は間違いだとドラッカーは言う。人ほど新しいものに貪欲な存在はない。しかし、変化を生み、変化を受け入れるには、捨てる能力を身につけておく必要がある。
加えて、いくつかの条件が必要である。変化を合理的なものと受け取れること、進歩であると理解できること、安定を強化するものと思えることが必要である。
そもそも人は、脆弱にして制約された、はかない存在である。安定が約束されなければ、イノベーションもカイゼンも行なわれない。身の安定を危ぶんでしまう。
ここにおいてドラッカーは、終身雇用が果たしてきた役割を高く評価する。変化と安定は別々に存在するのではなく、2つの極であり、共存すべきものである。じつはドラッカーが求めてきたのは、両者の調和であった。
「働く者に対し変化を要求するのであれば、何よりも彼らが変化できるようにしなければならない」(『現代の経営』)