前回コラムでは、習近平総書記率いる共産党指導部は、政権初期にあたる現段階において、中国人一人ひとりの権益を大切にする「執政党」というよりは、工農階級の権益を優先的に守ろうとする「革命党」の範疇にカテゴライズできると述べた。
しかしながら、習氏をはじめとする“老紅衛兵”たちが真の意味で「亡党亡国の危機」から脱皮しようと決心するのであれば、父親世代を越えるべく腹をくくるのであれば、中国共産党が「革命党」から「執政党」への進化を遂げる可能性は残されている、と結論づけた。
第五世代リーダーのなかで一定の支配力を誇る習近平氏ら“老紅衛兵”の政治観を理解する上で、即ち、これから5~10年の中国政治をウォッチしていく上で、価値ある知的材料と私が考える銭理群・北京大学教授(人文学者)の論考《対老紅衛兵当政的担憂》(老紅衛兵が政治を操ることへの懸念)を引用させていただいた。
本稿では、前回に引き続き、銭教授の論考を引用しながら、私自身のコメントも交えつつ、“紅老衛兵”たちの価値観や行動規範を具体的に検証していきたい。
「毛沢東の政治遺産」を
“自覚的に”活用した薄煕来
銭教授は、2010年以来、何人かの“高幹子弟”(“老紅衛兵”、“太子党”と同義語)の言動に着目しながら、論を展開していく。
銭教授が最初に取り上げるのは、本論考が書かれた2011年12月の段階では、依然第十八党大会(2012年11月)において政治局常務委員入りの可能性が残されていたとされる“プリンス”薄煕来だ。薄氏は習近平、王岐山(現政治局常務委員)らと並んで“老紅衛兵”の代表格とされる。
私も2010~11年にかけて北京で政治をウォッチしているとき、複数の太子党から「習・薄・王鉄三角」などという言葉を聞いた。太子党の中の太子党である三人(特に習と薄)が第十八党大会以降の中国政治をリードしていくという意味である。
私の知る限り、薄煕来、王岐山両氏は、胡錦濤・前国家主席と同じ共産主義青年団出身の李克強氏が「内定」していた国務院総理のポジションを密かに狙っていた。