未だに工農階級の代表から
脱皮できない中国共産党

第10回コラム「なぜ北京の地下鉄は何処に行くにも2元なのか?」において、中国共産党はなぜ民主化を含めた長期的な発展に貢献してくれる可能性の高い中産階級よりも、社会の底辺にいる低所得者層に対して優先的に手を差し伸べるのか、について論じた。

「中国共産党がいまだにマルクス・レーニン主義が唱える“無産階級”の党」だから、より中国的な言い方をすれば、「中国共産党は“工農階級”を代表している統治者」(工農=工人+農民、工人とは工場労働者などのいわゆる“労働者階級”を指す)だから、という理由を挙げ、共産党政権が「中産階級」を育てるのではなく、「工農階級」を守ろうとすればするほど、健全な民主化への道は遠のいていく、と結論づけた。

 また、こうも指摘した。

「中国が長期的、且つ健全に発展していくためには、貧富の格差が大きい“鉄アレイ型”ではなく、真ん中がぽっこり膨らんだ“ラグビーボール型”の社会に進化していくべきだし、そこが膨らむことによって、社会は安定し、政治の民主化にもつながっていく。そういう意味で、貧富の格差が開き続ける一方で、“中産階級”がほかの層と比べても苦しい状況に追い込まれ、“社会の弱者”と化している現状は問題だと言える」

 2012年秋、中国共産党第18党大会が北京で開催されていた頃、ハーバード大学のキャンパス内で中国のある歴史学者(以下、K氏)からこんな話を聞いたことがある。

「中国共産党最大の問題は、この期に及んで、いまだに自らが“工農階級”(無産階級)を代表する党だというイデオロギーから脱皮できていないことだ。暴力的に天下を獲った“革命党”の時代から根本的には何も変わっていない、ということだ。いま、中国共産党にとって最も重要なことは、“革命党”に別れを告げ、“工農階級”(無産階級)ではなく、真の意味で中国人一人ひとりの利益を代表する“執政党”になることだ」

 中国の将来に考えを及ぼすとき、やはり中国共産党自身がどのような自己改革を実現していくかがキーポイントになる。中国にいる間も、アメリカに来てからも、私はそう考えてきた。

 K氏のコメントは、腹の奥底にストンと落ちるものだった。