北朝鮮の謎の「核調達人」ユン・ホジン(65歳)。調達活動の中で中心的な役割を担っているとみられている。 |
国際社会の反対を押し切って核兵器の開発を続ける北朝鮮。核の脅威に歯止めをかけるにはどうすればいいのか。
7月、国連は北朝鮮に対する制裁リストに、個人として初めて1人の男の名前を加えた。ユン・ホジン(65歳)。北朝鮮の貿易会社の代表として、核開発に必要な機材や情報を世界各地から密かに調達してきたとみられている。
北朝鮮が進める核開発は「プルトニウム」と「濃縮ウラン」の2つある。プルトニウムの製造は80年代半ばから本格的に進められ、すでに核兵器およそ10個分のプルトニウムを製造したと考えられている。一方、ウラン濃縮の実態は明らかではないが、90年代半ばから始められたとみられ、北朝鮮は先月、「実験が最終段階に入った」と表明した。
いずれの核開発にも欠かせないのは、高度な技術、機材、そして情報。北朝鮮はこれらを海外から調達してきたと考えられているが、ユンはその調達活動の中で中心的な役割を担っているとみられている。ユンは一体何者か。どのように調達を行ってきたのか。取材班は半年前から世界各地でユンの足跡を追い、北朝鮮の「核の闇ネットワーク」の実態に迫った。
「核調達」その手口
世界を驚愕させた調達未遂事件
世界を震撼させた「アルミニウム管調達未遂事件」が起きたドイツ。取材班はここから追跡を始めた。 |
取材班はまず、ユンの名を世界に広めることになった調達未遂事件が起きたドイツから、追跡を始めた。2003年、北朝鮮のウラン濃縮疑惑が深まっていた最中に、ユンは高強度アルミニウム管200本をドイツの貿易会社を通じて調達しようとした。しかし、船で運びだした直後に捜査当局によって押収された。
当局は、北朝鮮がこのアルミニウム管を核兵器開発に使う核物質の1つ、高濃縮ウランを製造する「遠心分離機」に使うはずだったと判断。その理由の1つは内側の直径にあった。世界中に核の闇ネットワークを築いたパキスタンのカーン博士が遠心分離機用に調達したアルミニウム管の直径とミリ単位で一致したからだ。しかもユンが最終的に調達しようとしたアルミニウム管は2000本。1年間に核兵器1、2個分の高濃縮ウランを製造できる数だっただけに、事件は世界に大きな衝撃を与えた。
北朝鮮に対し、厳しい輸出規制を設けているドイツから、ユンはどのようにアルミニウム管を持ち出そうとしたのか。取材班は、ユンが輸出を依頼した貿易会社のトルッペル社長との間に交わしたファクス交信記録を独自に入手、そこからユンの手口を探った。
ユンが最初にトルッペル社長に商談をもちかけたのは2000年、北朝鮮の貿易会社「ナムチョンガン」の代表を名乗っていた。当初は、カメラの部品など核開発とは関係なさそうな発注を繰り返し、さらにはトルッペル社長を夫人同伴で北京に招待し、取引先と名乗る人物らと引き合わせるなどして社長の信用を巧みに得ていった。