首都圏の台所・築地市場。その移転の見通しが立った今、次の関心は早くも跡地の再開発に移っている。だが、そんな空気に冷や水を浴びせかねない60年前の負の遺産があるという。

築地市場を訪れる外国人を含めた多くの観光客のうち、原爆マグロが地中に埋まっていることを知る人はほとんどいない
Photo:DW

 世界最大の水産物取引量を誇り、海外にもその名が知られる築地市場(東京都中央区)。

 多くの市場関係者や観光客が行き交う正門脇の外壁に、築地市場の象徴的存在、マグロの絵が描かれた銀色のプレートがある。ほとんどの観光客が目もくれず通り過ぎる小さなプレートには、こう記されている。

「第五福竜丸から水揚げされた魚の一部(約2トン)が(中略)市場内のこの一角に埋められ廃棄されました」──。

 1954年3月、南太平洋のビキニ環礁で実施された米国の水爆実験により、漁船と共に被曝した魚たちを慰霊する碑文だ。

 当時、他にも高濃度の放射性物質が検出された計460トン近いマグロやサメなどの魚が、土中や海に廃棄された。

 だが、この築地市場に“埋葬”された通称「原爆マグロ」が、60年の時を経て、築地市場の行く末のさながら「喉に刺さった骨」になりかねないという。

 今年1月、東京都は来年度を予定していた築地市場の江東区豊洲地区への移転を1年先送りし、2015年度中とすることを決めた。その理由は、豊洲地区の土壌汚染の除去作業の難航だ。

 この豊洲の土壌汚染問題は、それまでも築地市場の移転の最大の焦点となってきた。

 10年度の都議会は、汚染問題を主な根拠に移転に反対する第1党の民主党と、賛成する自民、公明党が激しく対立。最終的に、移転問題の特別委員会委員長でもあった民主党都議会議員の造反劇により、11年3月の都議会で、築地市場の移転関連費が盛り込まれた12年度予算が、かろうじて成立したという経緯がある。