東京都にある品川女子学院は1925(大正14)年創立の中高一貫校だ。一時期、中1の生徒が5人という危機的な状況に陥ったが、1989年から始まった総合的学校改革により7年間で入学希望者数が60倍、偏差値が20ポイント上昇した。
そうした学校改革の中心にいるのが創立者の曾孫にあたる6代目校長・漆(うるし)紫穂子氏だ。「カンブリア宮殿」ほかメディアに登場する機会も多く、豊富なエピソードを交えた学校教育、家庭教育、コミュニケーションスキル、組織運営についての発言は、子育て世代はもとよりビジネスパーソンなどからも幅広く支持を集めている。
『伸びる子の育て方』の刊行にあたり、そのエッセンスを6回に分けて語ってもらった。
連載初回は、学校改革の過程で起こったいくつかのエピソードを通じ、漆校長が大切にしてきたものを紹介する。

学校は卒業生の故郷

漆 紫穂子(うるし・しほこ) 1925年創立、中高一貫の品川女子学院の6代目校長。わずか7年間で入学希望者が60倍、偏差値が20上昇。「28プロジェクト」は生徒たちの心にスイッチを入れた。世界経済フォーラム(通称ダボス会議)東アジア会議にも出席。2012年国際トライアスロン連合(ITU)世界選手権スペイン年齢別部門16位で完走。年齢別部門の日本代表に選抜。著書に『女の子が幸せになる子育て』など。現場教員歴約30年の講演は、お母さんだけでなく、お父さんにも大きな反響を呼んでいる。

 品川女子学院は、私の曾祖母が1925(大正14)年に設立した学校です。
戦後、高校卒業後すぐに家庭人としても社会人としても一人前になれるようにと、厳しいしつけ教育を行ってきましたが、変化していく時代への対応が遅れ、次第に志願者が減っていきました。

 私は、大学卒業後、別の学校で国語教師をしていましたが、あるとき、実家の学校が経営危機にあるという事実を知り、愕然としました。
 ほぼ同時に副校長をしていた母が病におかされ、余命半年と宣告されたこともあって、学校の再建に携わる決意を固めました。

 そのころ、80歳を超える卒業生から言われた言葉が、いまも忘れられません。

「卒業後、子育て、戦争、舅(しゅうと)の介護と日々の生活に追われ、初めて同窓会に出られたときは涙が出た。戦争で家が焼け、親兄弟もすでにこの世にいない。私の故郷はここしかない。どうか母校を守ってほしい」

 学校は、卒業生にとっての故郷です。
 卒業生の母校を守りたい。
 その一心で学校改革を始めました。

 まず、取り組んだのは情報収集です。
 同じような状況から再建を果たした学校の校長先生や、塾の関係者を訪ねては、教えを請いました。
「手遅れ」と言われ、落ち込んだこともありますが、
「大丈夫、いまできる目の前のことを一つひとつやっているうちは潰れないから」
 という言葉に勇気づけられました。

 教職員や生徒の意見もたくさん聞いて回りました。
 そして、プロジェクトチームごとにさまざまな改革を実行。校舎の建て替え、校名の変更ほか、生徒が喜ぶデザインに制服も一新。
 授業改革も行い、大学進学にシフトしたカリキュラムに変更しました。
 広報活動も強化した結果、翌年から志願者は倍増。7年後にはのべ2000人近くになりました。