「日本の女性たちは、日本人の手で美しくしたい」。
こんな衝撃的なキャッチコピーを掲げて、H&M、フォーエバー21、GAP、ZARAなどが林立する外資系ファストファッション(流行のファッションを低価格で大量に短いサイクルで販売する業態)のメッカ・原宿に殴り込みをかけた企業がある。イッツインターナショナルだ。
2月19日、H&Mやフォーエバー21の斜向かいという激戦区に第1号店を開業、平日にもかかわらず開店前から約600人の長蛇の列ができた。開業から6日で累計売上高は1500万円を超え、その後も日商70~80万円と想定の3倍以上の水準を維持しているという。
イッツは、中堅アパレルのフランドル、繊維メーカーの帝人ファイバーとクラボウ、生産・流通を手がける住金物産とNI帝人商事、ニットメーカーのフェニックス・ホンコンの6社が共同出資して設立した異色のSPA(製造小売り)連合体だ。「このままでは日本はデフレスパイラルから抜け出せない。ファストファッションへの対抗軸をつくろう」というフランドルの栗田英俊社長(イッツ社長も兼務)の呼びかけで実現した。
「ファストファッションへの対抗軸」としてイッツが打ち出したのは「極限のベーシック(定番)」。高品質の素材を使ったトレンドに左右されない定番商品をリーズナブルな価格で提供し、ファストファッションとも百貨店とも違う市場を新たに開拓する狙いだ。
たとえば、百貨店で2万円近くする繊細な編み地のニットがイッツでは6900円で買える。コストの積み上げではなく「自分がいくらなら買うか、という視点で価格を決めている」と宍戸典之・住金物産執行役員。「通常では考えられない価格」(業界関係者)の秘密はそこにある。6社がタイムリーに情報を共有することでコスト競争力を高め、市場の動きに迅速に対応できる体制を整えた。
3月4日にオープンした池袋店も開業から4日で累計売上高1400万円と絶好調。4月下旬には代官山にも出店する。もっとも、栗田社長は「まだ1合目」と慎重。黒字化は50店舗、売上高300億円となる5年後を計画しており、「当面は長期戦を覚悟している」(栗田社長)。
「アパレル業界は大きな転換期にある」(藤光一弘・帝人ファイバーマーケティング企画チーム長)。
ファストファッションが躍進し、百貨店のアパレルブランドが低迷するなかで、イッツのように企業の枠を越えた提携が今後活発になりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 前田 剛)