財政健全化と投資拡大の関係

 アベノミクスの第三の矢「成長戦略」では、「民間投資を喚起する」という需要サイドの部分が重要であるということを、これまでいろいろな形で強調してきた。この点は、マクロ経済全体の資金の流れという視点からも重要となる。

 長引くデフレのなかで、日本の民間部門の過剰な貯蓄資金は、その多くが政府の発行した国公債を購入するかたちで吸収されていた。政府の赤字を民間部門がファイナンスするという構図である。

 財政赤字を垂れ流しにするという状況は、一刻も早く是正しなくてはいけない。政府も、2015年までにプライマリーバランスで見た財政赤字幅を2010年比で半減するという目標を立てている。国費ベースで見ると、これは財政赤字をおおよそ8兆円程度縮小するという計算になる。それに加えて、地方政府の財政赤字も縮小される。

 財政赤字を縮小させていくことが重要なのは言うまでもないが、それは、政府部門がこれまでのようには過剰な民間貯蓄を吸収できなくなることを意味する。政府の財政赤字が大幅に縮小するなら、それに応じて民間投資を大幅に増やしていく必要がある。

 もちろん、貯蓄と投資は国内でバランスする必要はない。民間貯蓄の一部は海外投資として海外に出ていくこともある。あるいは民間投資をカバーするほどの貯蓄がないならば、海外からの対内投資を積極的に促進するという方法もある。

 ただ、大きな流れとしては、政府が財政赤字を減らし、余裕が出る貯蓄資金が民間投資に回っていく、という構図が見えてくる。民間投資を順調に増やすためには、財政赤字を縮小させていくことが必須である。財政健全化がないまま、民間投資だけが増えていくようだと、資金不足から金利が大きく上昇することになる。そうしたかたちの金利上昇は財政運営上好ましくないだけでなく、クラウディングアウトというかたちで民間投資を抑制する影響を及ぼしかねない。